抄録
最近私共は,胃原発と考えられる細網細胞肉腫の1症例を経験したので若干の考察を行ない報告する.
症例は63歳の男性で,約1カ月来の心窩部痛を主訴として来院した.来院時貧血,黄疸なく,表在リンパ節の腫脹も見られなかった.心窩部に軽い圧痛があったが腫瘤触れず,肝,脾も触知されなかった.胃透視および内視鏡検査にて,穹窿部後壁噴門に近く,不整円形の陥凹が認められた.潰瘍底は白苔で被われ,凹凸不整,境界は鮮鋭で,辺縁には潜堀が見られた.周堤はなだらかな隆起を示し光沢があり,発赤も見られた.粘膜皺襞の集中が著明で断裂部では幅広く肥厚し円味が見られた.胃の他部位には著変は見られなかった.生検では陰性であったが,上述の特徴的所見から悪性リンパ腫を疑い手術を施行した.手術時,穹窿部後壁に鶏卵大の腫瘤を認めた.その漿膜面は膵尾部および左副腎と線維性に癒着していた.肝,脾に異常なく,腹腔内リンパ節の病的腫脹も認められなかった.胃全摘,脾,左副腎および膵尾部の合併切除を行ない, Roux Y吻合により再建した.
切除標本の全割による検索により上述の潰瘍辺縁の粘膜から漿膜下層に細網細胞肉腫の浸潤が認められた.潰瘍はUl IVの慢性潰瘍の組織像を呈していた.さらに胃体部後壁の2カ所に同様の組織学的所見を呈する細網細胞肉腫の病巣が粘膜下層にとどまり存在していた.術後経過良好で,約1年を経過した現在,何ら再発の徴候を認めていない.
本症に於ては病変が胃内に多発する事が多いとされており,逆に多発性病変は本症の診断上の特徴の1つとも言われている.したがって本症の外科的治療に際しては,多発性病変の存在を考え,胃全摘術の適応が考慮されるべきであると考えられる.