日本臨床外科医学会雑誌
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胆嚢カルチノイドの一例
天野 純治猪野 俊治森山 昌樹
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1979 年 40 巻 1 号 p. 101-106

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抄録

原腸系内分泌細胞腫群として解釈されるようになった,カルチノイド腫瘍のうち,胆嚢に原発するものは極めて稀有で, Joel (1929)以来現在までの報告は,欧米で13例,本邦で著者例を含め3例の合計16例にすぎない.又全カルチノイドに対する割合は0.2%である.
症例は62歳女性で, 1年前から胆石様発作が数回あり,胆石症の診断で胆嚢摘出術を施行,所属淋巴節の腫脹,肝転移等はなかつた.胆嚢内容は,乳白色粘液性であり,コレステリン結石12コと胆嚢内腔に半球状に突出する4×3×2cmの軟性,充実性の腫瘍を認めた.組織検査で, HE.でN/C比は小,充実性胞巣状構造を認めた.又Grimelius (argyrophil反応)陽性, Masson-Fontana (argentaffine反応)陰性,電子顕微鏡で腫瘍細胞中に円形乃至卵円形の分泌顆粒を多数認めた.カルチノイドと診断した.
術後検査で,血中セロトニン, 5-HIAA値は共に正常, Epinephrine誘発試験(-),肝シンチグラム検査でも転移は認められず,臨床的にもカルチノイド症候群は全く見られていない.臨床検査上でも特記すべき病的所見は全く認められず,化学療法も特に行なつていない.
胆嚢カルチノイドとして報告された16例について分析を行なつた.欧米の報告例は殆んどが剖検で発見され,それも腫瘍の大きさは3mmから2cmまでの小さなもので,又発育も遅く,然もその経過は悪性である.カルチノイド症候群は一例のみで,結石との関係はない.一方本邦例3例では,腫瘍は大きく,又私共を含め全例に胆嚢摘出術を施行, 1例にカルチノイド症候群を認め,胆嚢摘出後,この症状も消退している.他の2例は術後の経過は順調で欧米例とはやや異なった臨床像を呈していた.

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