日本臨床外科医学会雑誌
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切除不能後6年4カ月生存しえた胆嚢癌1例
佐藤 守小橋 陽一郎柏原 貞夫倉本 信二松末 智田中 英夫中村 義徳北野 司久
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1979 年 40 巻 1 号 p. 94-100

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抄録

胆嚢癌の手術成績は極めて悪く,根治術を施行しえた症例でも5年生存することは稀である.著者らは,手術時,広範な肝転移のため切除不能と考えられたにもかかわらず,術後6年4カ月生存しえた例を経験した.
症例は50歳,女性で, 5年前より右季肋部痛を認めていたが,昭和46年,疼痛が持続したため,胆嚢胆管造影を施行したところ結石陰影が指摘されたので, 46年9月入院手術した.手術時,胆嚢の肝床部に径2.5cm程の腫瘍があり,されに肝右葉に拇指頭大から雀卵大の腫瘍が数個認められたので,切除不能と考え,右胃大網動脈から肝固有動脈にチューブを挿入して手術を終え,術後1カ月余の間にチューブよりMitomycin計60mgを投与した.腫瘍は組織学的にも腺癌であった.術後2カ月頃より患者の容態は悪化し,体重も20kg程減少し,癌悪液質との診断のもとに近医にて対症療法をうけていた.その後消息不明が1年程続き,すでに死亡したものと考えていたところ,昭和48年6月元気な姿で来院し,体重も増加していたので,その後4年近く, 198Auコロイドによる肝シンチ,腹腔動脈造影,腹部超音波検査等で経過を観察したが,胆嚢部に腫瘍は存在し,肝両葉にも転移を思わせる所見があり,腫瘍の発育は中止または極めてゆるやかなものと考えられた.ところが昭和52年になると肺転移を認め,ついで脳転移のために同年12月死亡した.剖検および組織学的所見より,胆嚢癌(組織学的には乳頭状腺癌)とその全身転移が確認された.
癌の自然治癒または長期担癌症例は極めて稀であり,なかでも胆嚢癌で5年以上にわたって癌と共存しえた例は現在までに報告がなく,興味ある症例と考えられたので,若干の考察を加えて報告した.

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