日本臨床外科医学会雑誌
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巨大十二指腸潰瘍を伴つた悪性膵島芽細胞腫の一例
林 幹彌
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1979 年 40 巻 1 号 p. 120-124

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抄録

膵体尾部腫瘍の診断,切除は特有の症状を示さない場合は極めて困難であるが,巨大な十二指腸潰瘍を併発したため早期に発見され切除出来た症例を経験したので報告する.
患者は56歳男性,昭和48年7月頃から空腹時上腹部痛あり,十二指腸潰瘍と診断され内科的治療をうけていたが,上腹部痛,呑酸嘔気持続し体重約9kg減少し,昭和50年9月4日上腹部激痛,嘔吐を来たして来院した.
初診時所見:体重37.5kg,血圧130~70mmHg腹部平坦,柔軟で右上腹部に圧痛著明なるも腫瘤,抵抗触知せず,胃X線検査で十二指腸球部小弯側に小指頭大のニッセあり,胃体部,十二指腸下行部,横行部に異常所見は認めなかった.検査成績:血色素量14.2g/dl,赤血球数348万,白血球数14,200,血清アミラーゼ値175単位,空腹時血糖115mg/dl,血清ビリルビン総量0.45mg/dl, GOT 62単位, GPT 20単位,尿糖腸性,胃液は過酸症であった.手術所見:開腹時十二指腸起始部,小弯側に肝十二指腸靱帯に穿通した潰瘍(3cm×4cm)あり之を含めて広汎胃切除術を施行す.膵体,尾部に鶏卵大の腫瘤を発見,硬度は硬で周囲組織への浸潤なく,リンパ節腫脹を認めず,腫瘤は脾と共に膵体部切除術を行い摘出した.術後経過は良好で3年後の現在体重50kgで無症状で生存している.
組織所見並に診断:腫瘍組織は全体として塊状で結合織被膜で被われ,周囲組織から区画されていた.しかし腫瘍内部では豊富な間質内に腫瘍細胞が巣状ないし島嶼状に浸潤性発育を示し悪性腫瘍の像を呈していた.腫瘍細胞は場所により腺管構造をとり粘液を産生し,その一部で膵島芽細胞への分化を示し増殖しており,血管内,リンパ腔内にも腫瘍細胞が認められた.このような所見から本腫瘍はZollinger Ellison症候群を呈した悪性膵島芽細胞腫(malignant nesidioblastoma)と診断さた.

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