日本臨床外科医学会雑誌
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穿刺吸引細胞診で局在を証明し得た上皮小体腺腫と甲状腺非髄様癌の合併した1例
森 秀樹伊藤 国彦三村 孝西川 義彦浜田 昇鳥屋 城男
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1979 年 40 巻 1 号 p. 67-71

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抄録

最近われわれは,術前に穿刺吸引細胞診で,その局在および組織像を診断し得た上皮小体腺腫と甲状腺非髄様癌の合併した一例を経験したので報告する.
症例は50歳の女性で前頚部腫瘤を主訴として来院した.既往歴では7年前大腿骨骨嚢腫による病的骨折, 2年前Al-Pの高値を指摘された.前頚部両側に腫瘤をみとめ右は鳩卵大,硬,左はそら豆大,軟であった.検査所見では血清Ca 15.6mg/dl. P 1.8mg/dl. Mg 3.4mg/dl. %TRP 81%, PTH 5.4ng/ml, Al-P 18.7KAUであり,他に異常所見はみとめられなかった.全身の骨に軽度の粗造化がみとめられた. 75Se-セレノメチオニンシンチグラムでは明らかな集積像はみられなかった.術前,穿刺吸引細胞診にて,右は甲状腺乳頭癌,左は上皮小体腺腫あるいは過形成と診断した.細胞診前後の血清Caの変動はみられなかった.全身麻酔下に手術を施行し,右腫瘍には甲状腺右葉切除およびリンパ節廓清を,左腫瘍には甲状腺の一部を含めた,腫瘍切除を行なった.組織診断は,右は甲状腺乳頭癌,左は上皮小体腺腫であった.
甲状腺髄様癌と上皮小体腺腫の合併は, MEN, type 2 (multiple endocrine neoplasia, type 2)として知られている.甲状腺非髄様癌と上皮小体腺腫の合併に関しては,注目されていなかったが, Ogdenらがその合併頻度を1.3%と報告して以来関心がよせられている.
現在のところ長期にわたる上皮小体腺腫による高Ca血症が甲状腺にCarcinogenとして働くのではないかと考えられている.
上皮小体腺腫の手術にあたっては,甲状腺疾患,特に甲状腺癌の合併頻度の高いことを念頭におくことが必要であると考えられる.

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