日本臨床外科医学会雑誌
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先天性幽門閉鎖症の1治験例
笠川 脩木田 宏之加藤 佳典
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1979 年 40 巻 1 号 p. 80-86

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抄録

先天性消化管閉鎖症は稀な疾患であるが,なかでも幽門閉鎖症の発生は更に少い.新生児期に本症と診断され手術が行われた症例は,自験例を含めて54例(国外38例,国内16例)が報告されているにすぎない.
本症は,幽門部あるいは近接する胃前庭部における消化管壁の断絶または膜様隔壁による閉鎖を意味するが,文献によると膜様閉鎖の頻度がたかく,女児にやや多く,概して胎生期の上部消化管閉塞の結果としての羊水過多症を伴っており,ほとんどに生後数日のうちに,膜切除,幽門形成あるいは胃腸吻合が行われているが,術後生存率は約70%である.
自験例は,満期,正常分娩,生下時体重3,600gの女児で,妊娠経過中に羊水過多症を認めている.生後2日目,授乳開始時より胆汁を混じない嘔吐が持続し,体重減少,脱水が著明となり, 4日目に来院.腹部に膨隆や腫瘤を認めなかったが,レ線撮影で胃泡以外に消化管内のgas像が全く認められず,造影剤を注入しても胃が充盈されるのみで十二指腸への移行はみられず,頻回の無胆汁性嘔吐の症状と,これらレ線撮影所見から先天性幽門閉鎖症と診断,全身状態を改善したうえ生後6日目に開腹.胃十二指腸の連続性は,視診では一見正常にみえたが,幽門部の触診と胃切開による内腔の所見により索状結合織による消化管壁断絶が確かめられ,索状部分を切除して胃十二指腸端々吻合と胃瘻造設を行った.幽門部以外の腹部臓器に異常所見はなく,切除部分の組織所見は結合組織と平滑筋組織で幽門構造は認められなかった.閉鎖形態はGerberの分類によればI B型であった.術後,胃瘻より内容を吸引し,経静脈栄養を行ない.造影剤の吻合部通過を確かめたうえ術後7日目に経口摂取を開始した.術後経過は良好で,発育も順調である.
先天性幽門閉鎖症治験例の概要に若千の文献的考察を加えて報告する.

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