日本臨床外科医学会雑誌
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鈍的肝外傷22例の臨床経験
松本 高渡辺 晃村上 穆
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1980 年 41 巻 3 号 p. 476-481

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抄録

近年鈍的腹部外傷による肝損傷は増加の傾向にあるが,我々は過去11年間に85例の鈍的腹部外傷を経験し,うち22例に肝損傷を認めた.受傷原因の77%は交通外傷であった.肝の単独損傷例は8例のみで他の14例は複数臓器の損傷を伴っていた.肝の損傷部位をみると,内側区域,前区域,後区域に多く認められ,外側区域の損傷は3例にみられた.
施行術式は,単純肝縫合術11例, unroofing 4例,圧迫充填又は電気凝固止血3例,拡大右葉切除術1例,外側区域切除術1例,試験開腹術1例,その他3例である. 22例中,大量出血にて2例を失い,死亡率は約9%であった.
肝破裂の手術は, (1) 確実な止血, (2) 肝壊死組織のdebridement, (3) 胆汁ドレナージ,の3点に要約されるが,高度の肝挫滅症例では,その止血に苦慮し術式の選択に迷うことが多い.我々も止むなく拡大肝右葉切除術を1例に施行したが,半年後に突然死亡した.いわゆるliver deathと考えられたが,良性疾患という観点からみれば,外傷に於ける肝葉切除術の適応について深く反省させられた症例であった.その後同様の症例を経験したが,二期手術を予定し, 3日後に再開腹を行い, unroofingとドレナージを施行したのみで,無事止血,救命し得た.貴重な症例であった.近事, deep central fractureの症例に対して,肝動脈結紮術(HAL)を行って止血を計り,その成功例も報告されているが,肝葉切除術を施行する前に考慮すべき術式と云えよう.われわれ自身の経験はないが,今後症例に応じて試みたいと考えている.
以上鈍的肝外傷22例の自験例について,その概要を報告すると共に,手術法のポイントを述べ考察を加えた.

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