抄録
最近著者らは重症の大腸蜂窩織炎の1例を経験した.
症例は53歳,女性で6年間肝硬変の加療を受けていたが,突然の腹痛で発症し,加えて発熱,嘔吐を主訴として当院を訪れた.汎発性腹膜炎の診断で開腹したが,病変は回盲部から横行結腸までの暗紫色壊死状を呈した大腸であり,同時に肝硬変,腹水も認めた.術後はadult repiratory distress syndrome, disseminated intravascular coagulationそしてendotoxin shockなどを合併したmultiple organ failureの病態であったが,救命治癒させることができた.腹水中,動脈血中からはE. coliが同定され,また切除標本からは粘膜下層,筋層に浮腫,充血を著明に認め,同時にグラム陰性杆菌球菌および好中球の著しい浸潤が認められた.
大腸蜂窩織炎は胃,十二指腸,小腸などの蜂窩織炎に同様に腸管壁粘膜下層,筋層に拡がる非特異性急性炎症であり,本症例は我々の確認できた範囲では本邦22例目の大腸蜂窩織炎の症例であった.渉猟できた報告を集計し,併せて内外の文献から本疾患についての考察を行った.
1),患者平均年齢は37.2歳で男女比は2.1:1と男性に多く発症する様である.
2),主症状は腹痛,発熱,嘔気嘔吐の腹膜炎症状であり,また本症では約半数の症例に突然の腹痛で発症していることが認められた.
3),発症部位は盲腸,上行結腸そして横行結腸が72%を占めていた.
4),本症では腸管壁粘膜下層,筋層を主として拡がり,浮腫,充血の組織中にはグラム陰性陽性菌と好中球の浸潤が認められる.
5),成因としては肝疾患との関連が注目された.