抄録
経口摂取不能の末期消化器癌患者に対する高カロリー輸液施行前後に,静脈内糖負荷試験を施行し耐糖能の変動ならびに血中アドレナリン,ノルアドレナリン,コルチゾール,乳酸,ピルビン酸など糖代謝に関与する諸因子について検討した.また栄養指標として血清アルブミン,血清トランスフェリン,クレアチニン身長比,末梢血総リンパ球数を測定しその変動を明らかにするとともに,至適投与カロリーについても検討した.
高カロリー輸液施行前においては,インスリン分泌の低下ならびに,血中グルカゴンの著明な高値が認められた.また,アドレナリン,ノルアドレナリン,およびコルチゾールなど抗インスリンホルモン濃度の上昇がみられ,耐糖能の低下が認められた.さらに,血中乳酸,ピルビン酸濃度の上昇から,末期癌患者では,腫瘍における嫌気性解糖の亢進がうかがわれた.
高カロリー輸液施行後4週間以上生存した症例について,予め設定した35kcal/kg/日以下投与群, 36~45kcal/kg/日投与群, 46kcal/kg/日以上投与群の3群に分け,耐糖能,糖代謝および栄養指標の面から至適投与カロリーについて検討した.最も高カロリーを投与した46kcal/kg/日以上投与群では,耐糖能が改善され,栄養状態も維持されたが,他の2群では耐糖能は改善されず,栄養状態は低下した.
以上より,末期癌患者といえども46kcal/kg/日以上の投与が必要と思われるが,高カロリー投与の場合には,病態の悪化による耐糖能低下を念頭におくことが重要と考えられた.