抄録
von Recklinghausen病に両側乳癌を合併した1例を経験したので報告した.
症例は, 60歳女性,左乳房腫瘤.左血性乳頭分泌.右乳房腫瘤を主訴に入院した.胸脊部を中心にして,大小不同のcafé-au-lait斑と多発性神経線維腫を認めた.左乳腺の外上部から外下部にかけて4cm×5cm, 右乳腺の外下部に2cm×3cmの硬い腫瘤を認めた.また,左腋窩リンパ節の腫脹を触知した.乳腺超音波検査では,両側の腫瘤は陰性像で,不規則な形態.辺縁の前面の悪性量.不均一な内部エコーを認めた.乳頭分泌細胞診では, Class Vであった.骨シンチグラムでは,右第10肋骨.第9胸椎右側および第3腰椎に異常集積像を認めた.
骨転移を伴う両側乳癌と診断し,両側の大小胸筋保存乳房切断術(Br+Ax)を皮膚斜切開にて施行した.左乳癌は, CD, G, n1(+), T2aN1bM1, 右乳癌は, D, G, n1(-), T2aN0M1であった.乳癌の組織学的分類では,腫瘤は両側とも乳頭腺管癌であった.エストロゲン・レセプター,プロゲステロン・レセプターは,左乳癌ではいずれも陰性で,右乳癌は両者ともに陽性であった.術後8カ月目に,肝転移で死亡した.
von Recklinghausen病は,神経線維腫・神経鞘腫などの神経原性腫瘍の悪性化(肉腫化)が問題になるが,非神経原性悪性腫瘍の合併も報告されている.非神経原性悪性腫瘍を合併したvon Recklinghausen病の本邦報告74例の集計とともに,両側乳癌についても若干の文献的考察をおこなった.