抄録
漏斗胸に先天性心疾患を合併した3例を経験した. 2例はASD合併例で, 1例はPDA合併例であった. ASD合併例のうち1例及びPDA合併例は心疾患と漏斗胸の手術を二期的に行った.このうちASD合併例は,最初に胸骨正中切開を行い,後日単純胸骨翻転術を施行したところ,術後5年目に翻転胸骨が再度陥凹した.このために, Kirshner鋼線を用いて,胸骨挙上術を追加した. ASD合併の第2例は,第1例の反省より,一期的手術を行った.即ち,第2肋間にて胸骨を横断し,変形肋軟骨及び胸骨を腹直筋を有茎として翻転し,体外循環下にASDを閉鎖,その後腹直筋有茎性胸骨翻転術を行った.術後経過もよく満足すべき結果を得た.
以上の経験から,先天性心疾患を合併した漏斗胸症例の治療にあたっては, (1) 開心術を必要とする際は,心疾患と漏斗胸の同時手術を行う方が,手術回数及び胸郭形成効果の面からも望ましい.この際,腹直筋有茎性胸骨翻転術は,開心術中の胸骨血流温存の点で優れている. (2) PDA等の手術創を異にする疾患の合併例では,一期的,二期的のどちらの手術法でもよい.この際,漏斗胸単独の術式としても,腹直筋有茎性胸骨翻転術は優れている. (3) ヘパリン使用の際は止血に注意し,肋骨,筋膜の固定を充分に行い,翻転胸骨の周囲に死腔を作らない工夫が大切である.