1992 年 53 巻 2 号 p. 345-347
高位胃潰瘍にて胃亜全摘術を施行され, 11年目に残胃にカルチノイドが発生した1例を経験したので報告する.
症例は66歳男性.タール便を認めたため当院外来を受診した.残胃透視で吻合部の壁の硬化像,胃内視鏡検査で食道・胃接合部から胃体部にかけての良性潰瘍と吻合部に不整な隆起を伴う狭窄が観察された.生検で低分化型腺癌と診断された.残胃全摘・膵脾合併切除を施行した.病理組織学的検索の結果,カルチノイドと診断された.深達度ssで,幽門下リンパ節に転移を認めた.
悪性貧血などの際の胃に発生する多発性のカルチノイドの原因の一つとして高ガストリン血症が考えられており幽門洞を切除された残胃は胃癌の発生母地と成り難いと考えられる.本症例は比較的稀な1例と思われた.