抄録
酸あるいはアルカリによる腐蝕性食道狭窄からの食道癌の発生は, 0~16.4%と報告されているが,その報告は欧米が中心であり,本邦では稀である.今回,われわれは薬剤の誤嚥から50年を経過し発症した食道癌症例を経験したので報告する.症例は, 69歳,男性.主訴は嚥下困難. 19歳の時にアルカリ性薬剤の誤嚥より腐蝕性食道狭窄を生じた.受傷から50年経過した平成元年7月より通過障害が増強,食道内視鏡にてIu領域の瘢痕内に癌病巣が認められた.同年10月5日,腐蝕性食道狭窄に併発した食道癌の診断の下に三領域郭清を伴う食道亜全摘術を行った.切除食道には胸部食道上中部に広範な瘢痕を認め, Iu領域の瘢痕組織中に,大きさ4.0×4.5cm, 3型の中分化扁平上皮癌がみられた.癌は外膜に浸潤しa2, ly(+), v(+)であるがリンパ節転移を認めずn0, stage IIIであった.術後経過は良好で,退院後社会復帰を果たしている.