1998 年 59 巻 12 号 p. 3205-3208
膵腎同時性重複癌の切除例を経験した.症例は54歳男性で黄疸を主訴に入院となった.精査の結果,膵・腎の同時性重複癌の診断で,膵頭十二指腸切除術,左腎摘出術および術中放射線照射療法(50Gy)を施行した.病理診断は膵中分化型管状腺癌,淡明細胞型腎細胞癌であった.術後経過は良好で日常生活を送っていたが, 6カ月後に多発性肝転移により死亡した.諸家の報告例からも膵腎同時性重複癌の予後は膵癌が規定する場合が多く,極めて不良であった.膵癌,腎癌とも臨床症状の発現が遅く,初期段階での発見が困難である.発見の契機となるのは,膵癌による黄疸あるいは疼痛といった症状であり,超音波やCTなどで偶然に腎癌が発見されることが多い.膵または腎のそれぞれの重複癌は比較的多くみられるが,膵と腎の同時性重複癌の切除例の報告は少なく,本邦では自験例を含めて5例の報告のみである.