日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
59 巻, 12 号
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  • 小池 綏男, 寺井 直樹
    1998 年 59 巻 12 号 p. 2965-2971
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1983年10月~1996年12月までの13年3カ月間に長野県がん検診センターの乳腺外来を受診した延べ8,915例から発見した葉状腫瘍37例を対象として臨床的に検討した.病理組織学的検索は標本を全割して行ったが, 30例(81.1%)が良性病変, 5例(13.5%)が悪性病変, 2例(5.4%)が境界病変であった.良性病変は13歳~58歳まで分布し,悪性病変は40歳代が4例,74歳が1例であった.腫瘤占居部位は外上部が半数以上を占めており,右は20例で左の17例より多かった.腫瘤の大きさは2.Ocm以下から7.1cm以上まで分布していたが,良性と悪性病変の間には大きさの差はみられなかった.触診では良性病変の半数を線維腺腫,5例を乳癌と診断し,葉状腫瘍と診断した症例は5例に過ぎなかった.悪性病変は5例中4例を乳癌と診断していた.画像診断および穿刺吸引細胞診の成績についても検討した.葉状腫瘍の確診は病理検査なしには難しく,とくに,良性・悪性の鑑別は永久標本で行うべきであることが示唆された.
  • 堀井 理絵, 福内 敦, 西 常博
    1998 年 59 巻 12 号 p. 2972-2974
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1986年より1997年4月までに当科を初診した乳癌症例1,160例中,血液透析中であった11例, 13乳房を対象とし臨床的に検討した.血液透析導入から手術までの期間は平均116カ月で,患側上肢に内シャントのある症例は2例であった.全症例に根治術を施行し,手術時間は平均116分で出血量は平均126ml,術前後に輸血を行った症例や,術当日緊急血液透析を必要とした症例はなかった.術後合併症は胸壁の皮下血腫形成と内シャント血栓閉塞をそれぞれ1例ずつ経験した.術後の経過観察では再発が2例,無再発他病死が2例,無再発生存が7例であった.血液透析中の乳癌手術は術前後の管理に注意を払えば安全に施行することが可能であった.
  • 手術成績および予後に影響する因子
    潮田 和人
    1998 年 59 巻 12 号 p. 2975-2980
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤306例の術後早期および遠隔成績に影響する術前・術中因子を緊急・待期手術別に検討した.年齢は44~86歳(平均70.3歳),男女比は254:52で,緊急手術65例
    (21.2%),待期手術241例(78.8%)だった.病院死亡率は緊急が36.9%,待期が2.1%だった.緊急手術での早期成績への影響はショックで死因の半数を占めていた.耐術例の5年生存率は待期手術が80.1%で,一般人口の77.7%と変わらなかった.緊急手術では71.5%と,待期手術と差がなかった.遠隔成績には虚血性心疾患は影響せず,胸部大動脈瘤と悪性疾患合併が影響した.緊急手術では腎機能障害が影響していた.以上より,緊急手術の術後早期成績のみが不良で,成績向上にはショックの回避が重要となる.しかし,スクリーニングにより早期に発見し,破裂前の待期手術が望ましい.
  • 原 靖, 緒方 裕, 大北 亮, 犬塚 清久, 小西 治郎, 金澤 昌満, 白水 和雄
    1998 年 59 巻 12 号 p. 2981-2985
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    結腸粘液癌の特徴を明らかにする目的で,当科で切除された結腸粘液癌39例について,結腸高分化腺癌370例,中・低分化腺癌146例と臨床病理学的に比較検討を行った.粘液癌は腺癌と比較して右側結腸に多く(p<0.05),腫瘍径が大きく(p<0.01),腫瘤型が多かった(p<0.05).高分化腺癌と比較して組織学的壁深達度は深く(p<0.Ol),腹膜播種性転移率は高く(p<0.01),治癒切除率は低かった(p<0.05).また,中・低分化腺癌と比較してリンパ節転移率,静脈侵襲は軽度であった(p<0.01).リンパ管侵襲は高分化腺癌に比較し高度で(p<0.05),中・低分化腺癌に比較し軽度であった(p<0.01).治癒切除後の生存率は高分化腺癌に比較し低率であった(p<0.05).以上により結腸粘液癌は中・低分化腺癌と同等の強い局所進展傾向を示すが,リンパ節転移,脈管侵襲は高分化腺癌と同等で,その局所進展傾向は粘液塊の膨脹性発育であることが示唆された.
  • 判別的数量化理論による分析
    辻田 和紀, 船橋 公彦, 三木 敏嗣, 小池 淳一, 鈴木 康司, 山下 茂一, 渡邊 正志, 中崎 晴弘, 永澤 康滋, 小林 一雄, ...
    1998 年 59 巻 12 号 p. 2986-2993
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移に関与する重要な因子を明らかにし,肝転移再発の有無を判別するために数量化理論II類による判別分析を行った.対象は肝転移例194例(同時性107例,異時性87例)と5年以上無再発進行癌261例で,従来よりよく用いられている臨床病理学的所見に浸潤増殖形式(INF)を加えて検討した.肝転移の有無,肝転移再発の有無に関連する因子としてはリンパ節転移(n)と壁深達度が重要であり,最も関与が大きいと考えられたのはnであった.また, INFも肝転移再発の有無の判別に有用な因子の一つと考えられた.関与が少ないと考えられた2因子を除いた9因子によるDukes B, C症例での解析では, cur A術後肝転移再発の有無の判別的中率は75.2%であった.多くの施設で利用できる因子のみでも,数量化理論II類による判別分析により肝転移再発の有無の良好な判別が可能であり,肝転移再発高危険群の選別に有用であると考えられた.
  • 腹腔鏡下胆嚢摘出術との併用を中心として
    近森 文夫, 奥宮 一矢, 国吉 宣俊, 国吉 和重, 渋谷 進, 高瀬 靖広
    1998 年 59 巻 12 号 p. 2994-2999
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆嚢胆管結石12例を対象として経皮経乳頭的除石術 (PPBD)・腹腔鏡下胆嚢摘出術 (LC) 併用療法の有用性について臨床的に検討した. PPBDは,経皮経肝胆管ドレナージ (PTBD) ルートより消化管拡張用バルーンを挿入し乳頭を拡張後,血管造影用バルーンカテーテルを用い胆管結石を十二指腸へ押し出す手技である. LCは型の如く行う.胆管結石最大横径は7~15 (11±3)mm,個数は1~25個で, 10例は総肝管-総胆管, 2例は左肝管-総胆管に存在した.全例で除石可能であったが,横径13mmを越える結石2例は電気水圧衝撃波による砕石を必要とした(除石成功率100%). LC手術時間は146±26分, LC術後入院期間は9±3日, PTBD留置期間は23±6日,全入院期間は26±3日であった. PPBDは多数胆管結石例,大結石例および術中落石例に対しても適応可能であり, PPBD-LC併用療法により多くの胆嚢胆管結石症例は開腹することなく治療しうるものと思われた.
  • 浅野 雅嘉, 田中 千凱, 種村 廣巳
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3000-3004
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1995年7月から1998年1月までに当科で手術施行した「スポーツヘルニア」の8例(13側)について検討した.全例16~29歳の男性サッカー選手で,運動時の鼠径部痛を主訴として,整形外科医(スポーツドクター)の紹介にて当科を受診した.疼痛部位は一側3例,両側5例で,病悩期間は2カ月から2年であった.診察時全例腹圧を加えても鼠径部の膨隆を認めず,鼠径管内に示指挿入時に痛みを認める例が多かった.手術所見では外鼠径輪の開大,外腹斜筋腱膜の裂隙・菲薄化,鼠径管後壁の膨隆・脆弱化などを認めたが,ヘルニア嚢は認めなかった.手術はiliopubic tract repairにて鼠径管後壁の補強を行った.術後6~9週で全例運動時の疼痛消失し,発症前のスポーツレベルに復帰した.スポーツ選手の慢性的な鼠径部痛の原因として「スポーツヘルニア」を新しい疾患概念としてとらえるべきであり,またその治療には鼠径管後壁補強の手術が有効と考えられた.
  • 七戸 俊明, 塚田 守雄, 石倉 正嗣, 加藤 紘之
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3005-3007
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    乳腺血管肉腫は極めて稀な疾患で,予後は極めて不良である.われわれは術後5年生存をみた乳腺血管内肉腫の1例を経験した.症例は34歳,女性.左乳腺腫瘤を主訴に当院を受診した.左乳腺B領域に0.8×0.8cmの球形腫瘤を認めたため,腫瘤摘出術を行ったところ,乳腺血管肉腫の病理診断を得た.このため,乳房温存術(quadrantectomy +腋窩郭清)を行った.現在までの術後5年間,局所再発および転移の兆候はない.
  • 尾形 敏郎, 横田 徹, 六本木 隆, 菅野 圭一, 飯野 佑一, 森下 靖雄
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3008-3010
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    患者は33歳の未婚女性で,左乳房腫瘤を主訴に来院し,生検で乳腺原発悪性リンパ腫(B-cell lymphoma; diffuse, large cell type)と診断した.インフォームド・コンセントにより乳房温存術,術後放射線療法(50Gy),短期化学療法(CHOP療法1クール)を施行した.乳腺原発悪性リンパ腫の治療法や予後は組織分類や病期により異なる.自験例はWorking Formulationの病理分類によるとintermediate-gradeであり,臨床病期はAnn Arbor分類によるとIA期で,良好な予後が期待された.したがって本症例は乳房温存療法の良い適応と思われた.
  • 佐古田 洋子, 金 英植, 藤原 澄夫, 足立 確郎, 田頭 幸夫, 大林 千穂
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3011-3014
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    豊胸術後の乳癌の報告は,比較的稀である.今回私どもは,内容が生理食塩水のプロテーゼで豊胸術を受けた患者に乳癌を合併した症例を経験したので報告する.症例は45歳女性で左乳房腫瘤を主訴に来院した. 2年前に,豊胸術(使用プロテーゼCUI RTTタイプ,プロテアーゼ内容生理食塩水)を受けている.左乳房CとA領域に4個の腫瘤を触知,摘出生検で3個が癌であり, 1個が乳頭腺管癌, 2個は非浸潤性乳管癌で,広範な乳管内進展を伴うと考えられたため,非定型乳房切除術を施行した.病理検索で,腫瘍は乳頭腺管癌で,広範な乳管内進展を認めた.プロテーゼ周囲には,300~1,200μmの線維性の被膜形成が認められた.当症例では,豊胸術の影響で診断が困難になったということはなく,豊胸術と癌との関連も考えられなかった.
  • 藤本 幹夫, 大野 耕一, 井上 直, 伊東 了, 塚本 泰彦
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3015-3020
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は56歳女性. 1994年7月,右乳房外側に1.5cm大の腫瘤が認められ, biopsyにて癌と判明. 9月7日Quadrantectomy+Ax+Mnを施行した.組織型は乳頭腺管癌, n0, ly(-), v(-), ER(-), PgR(-)で,術後放射線照射,更に補助化学内分泌療法を加えた.ところが, 1996年5月頃から左腋窩リンパ節転移が認められた.同年9月,急に腹水が貯留し入院させた.エコー, CT検査では肝臓に転移を認めなかった.腹水穿刺, MF療法で腹水はほぼ消失したが,その後に胸水が出現し,ドレナージなどで胸水は消失した.腹水,胸水中から腺癌が認められ, CA15-3のみ高値であった. 1997年1月頃から再び腹水が貯留し始め再々入院となった.腹水穿刺とCDDP注入, CAF, +MPAを投与, 4月12日退院.退院時のCTでは肝転移は認めなかった.しかし,その後再び腹水が貯留,イレウスを生じて9月11日に死亡した.これら転移は全てリンパ行性に起こったものと推測された.
  • 坂口 昌幸, 新宮 聖士, 春日 好雄, 小林 信や, 天野 純, 保坂 典子, 野村 節夫
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3021-3026
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は45歳女性.検診で前頸部腫瘤を指摘され,縦隔内甲状腺腫と診断された.この時に胸部X線で右横隔膜の挙上を指摘され, CT, MRIにて右肺下面と横隔膜との間に巨大な腫瘤を認め,右肺中葉を圧排していた. CT値より脂肪腫,胸腺脂肪腫が疑われた.これらの腫瘍を摘出した.縦隔内甲状腺腫は256g,縦隔内巨大腫瘤は2,000gで,病理組織学的にはそれぞれ腺腫様甲状腺腫,胸腺脂肪腫と診断された.縦隔内甲状腺腫を合併した胸腺脂肪腫は極めて稀で,われわれが検索しえた限りでは,本症例1例のみであった.
  • 福田 幹久, 岩永 幸夫, 小川 正男, 田中 孝一, 石黒 清介, 松田 成人
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3027-3031
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は42歳女性.胸部写真上右肺の巨大腫瘤影を指摘され入院.胸部CTで右胸腔内の背側中下部に巨大腫瘤影が認められ,胸膜或いは肺原発の良性腫瘍を考え,手術を施行した.後側方切開で開胸したところ,腫瘤は表面平滑で壁側胸膜との癒着はほとんど無く,上下葉間面の上葉と癒着していた.摘出した腫瘤は22.3×16.3×13.6cmで重量は2,300g,表面平滑で被膜を有し,割面は黄白色亢実性でほとんどが線維性成分で占められていた.病理所見は紡錘型細胞が主体で,悪性所見はなく,膠原線維の増生が強かった.免疫組織染色ではvimentin陽性でEMA, keratinは陰性であった.以上より臨床所見と合わせ広茎性の上葉肺胸膜原発の孤立性線維性胸膜腫瘍と診断した.当疾患は良性でも再発する可能性があり,術後も慎重な経過観察が必要である.今回のような胸腔内のほとんどを占める巨大な胸膜腫瘍は稀と思われるため文献的考察を加えて報告した.
  • 酒井 哲也, 川口 勝徳, 原 章二, 裏川 公章, 出射 由香, 藤川 雄三
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3032-3035
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    食道平滑筋腫上に食道癌が合併することは極めて稀であり,本邦ではこれまで20例が報告されているにすぎない.
    症例は56歳女性.上腹部不快感を主訴に当院受診.内視鏡検査の結果,門歯列より22cmにやや白色調の低い隆起性病変を認めた.同部からの生検の結果,扁平上皮癌が検出されたため,右開胸胸部食道全摘,胸壁前食道胃吻合術を施行した.病変はIu前壁の0-I型2.2×1.2×0.2cm大で,肉眼的進行度はAo, No, Plo, MoのStage Iであった.病理組織像は20×14mmの粘膜筋板由来の筋腫上に10×18mmの粘膜内癌を認めた.
    本症例を含めた本邦21例をまとめると,年齢は平均57.7歳,男女比は14:7と男性に多い.深達度は19例(90%)が早期癌であり,直下にある筋腫が表層部からの癌の深部浸潤および脈管侵襲を妨げるのに大きく関わっているのではないかと考えられる.
  • 森元 良彦, 味木 徹夫, 石田 常之, 奥村 修一, 斎藤 正樹, 中村 哲也
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3036-3040
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    食道癌肉腫は稀な食道悪性腫瘍であり,中でも真性癌肉腫の報告は少ない.症例は70歳男性.発熱を主訴に精査され,胸部中部食道に存在する隆起性の腫瘍を指摘された.高齢で,心疾患合併のため非開胸食道抜去術を施行した.組織学的検索では,腫瘍は扁平上皮癌部分と,異型が強い紡錘形細胞の肉腫様部分とからなり,両者の間に移行像は認められなかった.肉腫様部分は,免疫組織化学染色で非上皮性抗体だけが陽性であり,電顕検索でmyofilamentを認めたものの,上皮由来を思わせる部分を認めなかった.以上の所見より,本腫瘍は“真性癌肉腫”と診断された.術後に発熱を認めなくなったことから,発熱の原因は,食道癌肉腫由来のものと考えられた.
  • 早川 弘輝, 草川 雅之, 高橋 宏明, 岡村 一則, 小坂 篤, 勝田 浩司
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3041-3045
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    73歳男性の食道切除後13年目に再建胃管に発生した胃癌の1切除例を報告した.症例は,1984年2月,胸部中部食道(lm)の早期食道癌にて右開胸,胸部食道亜全摘,胸腔内食道胃吻合術を施行.腫瘍は表在平坦型, 2.0×1.5cm大で,組織学的にはscc, m, n0, v0, ly0, stage 0であった. 1996年9月より胸部不快感・食思不振があり当院内科を受診. Sick Sinus Syndromeを指摘されて1997年2月にペースメーカーの植え込みを受けた.その後も症状は改善せず,内視鏡検査にて前庭部小彎に5型の胃癌を認め,同年3月当外科へ紹介された.右胃大網動静脈を温存した幽門側胃切除を行い,残胃と空腸をRoux-en-Y型に吻合して再建した.組織学的には高分化型腺癌tubl, ss, n(-), ly1, v1, stage Ibであった.術後12カ月目の現在再発の徴候なく健在である.本邦の胸部食道切除後再建胃管癌65例を集計し検討して,あわせて報告した.
  • 西江 浩, 水澤 清昭, 小川 東明, 平岡 裕
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3046-3049
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹部外傷による消化管損傷の中でも胃損傷は稀であるが,特に鈍的外傷による胃単独の損傷は稀である.今回われわれは,腹部鈍的外傷後に遅発性の胃前庭部狭窄をきたした症例を経験した.症例は22歳男性で,交通事故でハンドルにより上腹部を強打し上腹部痛を主訴に受診.腹部実質臓器の損傷は認められなかったが,直後より吐血がみられ,受傷後7日目の胃内視鏡検査で胃前庭部の粘膜の裂傷が認められ,受傷後18日目頃から狭窄症状が出現し, 30日目にはほぼ完全閉塞の状態となり,胃切除術を施行した.鈍的外傷による胃の非全層性損傷単独の症例は極めて稀であり報告例がないため,受傷後の自然経過も不明であるが,本例では胃前庭部の狭窄にいたる経過が観察された.胃の非全層性損傷の受傷機転に関して若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 西村 重彦, 良河 光一, 玉森 豊, 森本 真人, 妙中 直之, 榎本 準, 山木 健一郎, 安芸 敏彦, 河村 哲雄, 吉川 和彦
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3050-3054
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は76歳男性.嘔気,嘔吐を主訴に当院内科を受診しイレウスの診断にて入院した.
    イレウスに対しイレウス管を挿入し,精査加療中であった.イレウス管挿入後第8病日,(イレウス管は230cm挿入) 38.0°Cの発熱,腹痛が出現した.第9病日には腹部単純レントゲン写真で腹腔内遊離ガス像が認められ,消化管穿孔による汎発性腹膜炎と診断し緊急手術を行った.上行結腸癌が原因のイレウスであり,多発性の回腸穿孔を認め,腹腔ドレナージ術,回腸部分切除術,回腸瘻造設術を施行した.回腸の切除標本では2列に縦走する多発性の潰瘍を認め,うち3カ所が穿孔性潰瘍であった.先端のバルーンがバウヒン弁を超え,逆戻りしない状態となったイレウス管を軸として,回腸がアコーディオン状に折りたたまれた結果,イレウス管による圧迫が原因で,回腸に多発する縦走潰瘍が生じたものと考えられた.
  • 丸橋 繁, 矢野 浩司, 門田 卓士, 立石 秀郎, 衣田 誠克, 岡村 純
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3055-3061
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    虫垂重積症の稀な2例を経験したので報告する.症例1は42歳の男性.便潜血反応陽性の精査のため行った注腸造影検査および大腸内視鏡検査で,盲腸に4cmのIpポリープ病変を認め,またその基部に潰瘍を随伴していた.腫瘍性病変を否定できず,腹腔鏡補助下回盲部切除を行った.切除標本では翻転した虫垂が認められ,完全型虫垂重積症(“inside-out”型)と診断された.症例2は57歳の女性.貧血の精査で行った注腸造影検査で盲腸底部に約3cmの隆起性病変を認めた.大腸内視鏡検査ではglans様に重積する虫垂を認めた(虫垂重積症1型).腹部症状はなく現在経過観察中である.
  • 斉藤 文良, 山下 巌, 森永 秀夫, 三浦 二三夫, 斉藤 寿一
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3062-3065
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    虫垂穿孔にて発症した虫垂嚢胞腺腫の1例を経験したので報告する.症例は50歳,女性.右下腹部痛を主訴に受診した.腋窩温は38.1度,直腸温38.5度であり,右下腹部に圧痛および筋性防御を認めた.入院時の血液検査では白血球数が10,000/mm3と高値を示したが, CRPは陰性であった.腹部超音波検査では回盲部周囲に少量の腹水を認めた.以上より急性虫垂炎と診断して手術を行った.虫垂の先端に嚢胞を認め,穿孔していたため虫垂切除術,ドレナージ術,周囲脂肪組織の切除を行った.病理組織所見では虫垂嚢胞腺腫の診断であった.術後1年間経過観察を行っているが,腹膜偽粘液腫は認めていない.
  • 赤坂 尚三, 曽我 浩之, 清水 信義, 細谷 晃弘
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3066-3069
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    極めて稀な大腸原発の血管肉腫の1例を経験したので報告する.症例は34歳,男性.主訴は腹痛で,大腸内視鏡検査で,上行結腸に隆起性腫瘤病変を認めた.手術待期中に突然腹痛が増強したため,緊急手術を施行した.上行結腸,肝彎曲部に6cm×4cm×4cm大の有茎性ポリープがあり,これが先進部となって腸重積をきたしていた.ポリープの基部に13.5cm×9cm×1.5cm大の粘膜下腫瘤を認めた.結腸部分切除術とリンパ節郭清を行った.組織学的には,ポリープは脂肪腫で,ポリープ近傍の粘膜下に血管内皮腫の性格(Factor VIII, UEA-1陽性)を有した血管性腫瘍細胞の分葉状増生が散在性,癒合性に認められた.病変は漿膜下組織まで及び,核分裂像やリンパ節にも同様の病変を認めたことより,稀な大腸原発の低悪性度血管肉腫と診断した.術後6年を経過して,再発なく健存中である.
  • 石田 秀之, 龍田 眞行, 川崎 高俊, 桝谷 誠三, 里見 隆, 花井 淳
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3070-3075
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,男性.上行結腸癌で手術した.第1病日の経過は良好だった.第2病日の朝から腹痛・腹部膨満あり.午後に下血を生じ,出血は少量だったが循環不全状態となった.その後呼吸不全が進行し,多臓器不全で第3病日に死亡した.剖検では回腸全域から空腸半ばにかけて壊死に陥っていた.吻合部の縫合不全や腸管の絞拒はなく,上腸問膜動静脈は開存しており血栓も認めなかった.非閉塞性腸管梗塞症(non-occlusivemesenteric infarction, NOMI)と診断した.
    本症は早期診断が困難で予後不良である.開腹手術後はしばしば腹痛や腹部膨満がみられる.稀ではあるが開腹術後におき得る致命的な合併症として本症を念頭におく必要がある.
  • 伊藤 之一, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 籾山 正人, 千田 嘉毅
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3076-3079
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは再発巣を4度切除し初回手術後7年生存中のstage IV大腸粘液癌の1例を経験したので報告する.
    症例は47歳男性.平成2年10月空腸と癒着する横行結腸癌にて初回手術施行.大網に腹膜播種を認め横行結腸,空腸,大網切除術,人工肛門造設術を施行した.病理学的にはH0, P1の粘液癌, stage IVであった.平成5年11月に下行結腸,回腸を巻き込む腹膜播種を認め,下行結腸,回腸と共に腹膜播種を切除した.平成8年2月には正中創腹壁再発のため,平成9年5月には回腸,左尿管を巻き込む腹膜播種のため,平成10年3月には左外腸骨リンパ節転移にて手術施行した.以上計4回再発のため手術を施行したが,初回手術より7年経過した現在も健在である.本症例は同時多発性転移は認めなかったため切除し得た.再発を繰り返しても病巣が限局している場合は積極的に追加切除することが長期生存に有効であった.
  • 大谷 順, 河合 央, 植村 忠廣, 菅 正人, 丸山 修一郎, 吉實 憲, 唐土 善郎, 山本 雅彦, 曽田 益弘, 三村 秀文
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3080-3085
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    患者は72歳男性,既往歴として20年前に十二指腸潰瘍, 12年前に胆石の手術を受けており,胆石の手術後より腹腔内異物を指摘されていた.今回,胆道系酵素の上昇を指摘され当科紹介となった.腹部単純X線写真で右上腹部に手術用縫合針と思われる弓状の異物を認め,腹部エコーでは肝内胆管の拡張と肝内結石を認めた. PTCでは左肝内胆管に異物とそれを取りまく透過像を認め,異物を核とした肝内結石と診断した. PTCSで除去を試みたが不成功であり, ESWLで異物周囲の結石を破砕した後,再度PTCSを行い,結石と異物を摘出することに成功した.摘出された異物は手術用縫合針であり,胆石手術の際,腹腔内に遺残した針が胆道内に迷入して核となった結石と診断した.手術用の縫合針が核となった結石症の報告はなく,自験例は極めて稀な症例と思われた.また,結石と異物の除去に際して, ESWLを併用したPTCSは低侵襲であり極めて有用であった.
  • 織畑 剛太郎, 大橋 薫, 児島 邦明, 深澤 正樹, 別府 倫兄, 二川 俊二
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3086-3089
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝嚢胞自然破裂の症例を経験したので報告する.症例は51歳男性. 2年前より当院内科にて巨大肝嚢胞を指摘されていた.就眠中に特別な誘因なく激しい腹痛を自覚し来院.腹部全体への激痛を訴え筋性防御,反跳痛などの腹膜刺激症状を認めた.確定診断に至らなかったが,緊急開腹手術を施行した.開腹時,混濁した腹水を約1,000ml認め,肝嚢胞に穿孔部を認めた.術中胆道造影にて肝嚢胞と胆道系に明らかな交通は認められず嚢胞摘出術を施行し,術後経過は順調であった.
  • 江畑 智希, 服部 龍夫, 小林 陽一郎, 宮田 完志, 深田 伸二, 湯浅 典博
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3090-3093
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は53歳女性.右乳癌の術前腹部超音波検査で径2.5cmの肝腫瘤を認めた.腹部血管造影では屈曲・蛇行する右肝動脈前下行枝末梢に遠心性の濃染像を認めた.肝限局性結節性過形成を疑ったが乳癌肝転移を否定できず右定型的乳房切除術・肝部分切除術を施行した.切除標本割面では,後25mmの凹凸不整の黄色腫瘤を認め,内部は小結節状で中心性瘢痕を認めなかった.病理組織学的に肝限局性結節性過形成と診断された.
    本症例は肝限局性結節性過形成に特徴的とされる中心性瘢痕を認めないため術前診断が困難であった.本邦報告例76例の内25例(33%)は中心性瘢痕を認めておらず,肝限局性結節性過形成の診断上中心性瘢痕の存在は必須ではないことを強調したい.
  • 松山 晋平, 玉井 文洋, 平松 健児, 一本杉 聡, 三宅 昌, 二見 哲夫
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3094-3099
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は68歳男性で,腹部超音波にて肝内側区域に径7cmの肝細胞癌を認めた.胃内視鏡では十二指腸球部に隆起性病変を認め,生検にて転移性肝癌と診断した.手術は,肝左葉切除術,幽門側胃切除術を施行したが,術後101日目に癌死した.本症例は,術中所見にて,肝癌と十二指腸転移巣との間に直接浸潤を認めず,門脈内腫瘍塞栓を認めたこと,組織学的に十二指腸転移巣にはリンパ節浸潤は認めず,静脈への浸潤が著明であったことなどから,転移経路は門脈逆行性転移と考えられた.肝細胞癌の十二指腸転移は海外文献を含めて今までに12例の報告があるが,本症例は血行性転移例では4例目,そのうち生検にて診断しえた例では2例目であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 岩倉 伸次, 中井 健裕, 廣川 文鋭
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3100-3103
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    全内臓逆位症に合併した肝細胞癌の1例を報告する.症例は63歳の男性で22歳時に急性虫垂炎にて虫垂切除術を受け,その際に完全内臓逆位症と診断された. 1996年4月, C型肝炎で通院中であったため腹部超音波検査を施行したところ,肝の後区域に約2cmの腫瘍を認めたため入院した.腹部血管撮影の結果,原発性肝癌の診断で6月13日に手術を行った.
    開腹すると,肝硬変は著明であった.術中超音波検査にて腫瘍の位置を確認して,肝後下区域切除を行った.患者は術後6カ月で尾状葉に再発し,経カテーテル動脈塞栓療法を行い,現在外来にて経過観察中である.
    肝細胞癌を合併した内臓逆位症は現在まで自験例を含めて10例の報告があるが,他臓器癌との合併よりは比較的稀であると思われた.
  • 西口 完二, 奥沢 正昭, 太田 雅之, 中田 英二, 馬渕 秀明
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3104-3108
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃癌手術後に発症した気腫性胆嚢炎の1例を経験したので報告する.症例は68歳男性.胃癌にて胃全摘,膵体尾部脾合切, D3郭清を施行した.術後77日目より,右季肋部痛と発熱を認めた.腹部単純X線検査,腹部CTにて胆嚢周囲にガス像を認めたため,気腫性胆嚢炎と診断し,胆嚢摘出術,腹腔ドレナージを施行した.術中採取した胆汁よりKlebsiella pneumoniaeが検出された.本症の発生要因は胆嚢動脈の閉塞もしくは胆嚢壁の循環障害による胆嚢壁の虚血状態を基盤として, 2次的にガス産生菌の感染が加わり発症するものと考えられ,自験例においても糖尿病による血管症変が本症の発生の一因になったものと思われた.さらに,自験例を含め,胃手術後に発生した本邦報告例10例につき検討を加えた結果,その手術操作も本症の発生の一因になるものと推測された.
  • 田中 祥介, 八幡 和彦, 露久保 辰夫, 田村 潤, 谷 昌尚, 小堀 鴎一郎
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3109-3112
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    急性気腫性胆嚢炎(本症)を3例経験した.症例1は79歳女性で高齢,糖尿病および高血圧にて,症例2は65歳男性で肝硬変合併肝細胞癌にて,症例3は45歳男性でDIC徴候にてそれぞれ高リスク状態であったため経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)を施行した.症例1,2は保存的治療のみにて治癒せしめ,その後も胆嚢炎の徴候は認めなかった.症例3は安全に待機手術を行い得た.本症は早期の手術が必要とされてきたが, PTGBDはその治療に非常に有用であり,第一選択の治療法として今後も積極的に施行すべきであると考えられた.
  • 水野 修吾, 須崎 真, 伊藤 史人, 梅田 一清
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3113-3117
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は73歳女性.主訴は右上腹部痛.来院時Murphy徴候を認め,血液検査では白血球11,100/mm3, CRP 5.1mg/dlと炎症所見を認めたが,肝機能異常は認めなかった.画像診断では腹部単純X線写真で肝内に樹枝状透亮像,腹部超音波検査では胆嚢の腫大,壁肥厚,底部にstrong echoを呈し, CTでは胆嚢内と肝内胆管内にガス像を認めた.以上より気腫性胆嚢炎と診断したが,高血圧,心房細動, sick sinus syndromeの既往があり,術前の心機能評価を要するため,緊急手術を避けPTGBDを施行. 12日後に胆摘,総胆管切開Tチューブドレナージ術を施行した.胆嚢内に2mm大の黒色石を3個認め,病理組織所見では胆嚢壁に出血,壊死と散在性の空胞を認める壊疽性胆嚢炎であった.
    自験例を含む胆管内ガス像を伴った気腫性胆嚢炎の本邦報告は14例で死亡例はなく,適切な処置を行えば胆管内ガス像の有無は予後に影響しないことが示唆された.
  • 有賀 浩子, 小池 秀夫, 前田 恒雄
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3118-3121
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    悪性疾患と鑑別困難な外傷性胆道狭窄症の2例を経験した.症例1は40歳の女性.ハンドル外傷の1カ月後に閉塞性黄疸で発症した.腹部超音波, CTおよびERCP所見と胆汁細胞診で悪性疾患を完全に否定できず,更に膵頭部腫瘤に対する迅速診断を施行し,Group IIIであったため膵頭十二指腸切除術を施行した.腫瘤は繊維性瘢痕組織のみであった.症例2は58歳男性.受診時,腹部打撲の既往が不明であった. ERCP所見では総胆管が完全閉塞し,腫瘍マーカーも高値であった.開腹時,腫瘤は門脈および右肝動脈に直接浸潤し切除不可能と思われバイパス術のみとした. 5年後,吻合部狭窄と総胆管結石で再開腹し外傷性胆管狭窄症であったと判断した.本来外傷性胆道狭窄症は良性疾患であるため,ドレナージ治療かあるいは侵襲の少ないバイパス術とするが,悪性疾患との鑑別が困難であり,治療方法の選択には慎重であるべきと思われた.
  • 篠藤 浩一, 斎藤 弘司, 原田 昇, 吉川 廣和
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3122-3126
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は, 71歳女性. 24年前胆摘および総胆管載石術の既往があり,今回右季肋部痛を主訴に来院した.初診時,著明な,肝細胞障害および胆道系酵素の上昇を認めた.また,腹部US, CTにて総胆管の拡張とその内部の石灰化病変を認めた. ERCPにて,総胆管の著明な拡張および中部の透亮像を認め総胆管結石と診断し,総胆管切開,載石Tチューブドレナージ術を施行した.摘出物は, 27×12mm大のビリルビンカルシウム結石で成分分析の結果シリコン樹脂と判明した.以上より本例胆道異物は既往手術により挿入されたTチューブ抜去時の断片遺残物と診断された.胆道異物の報告は,稀であり中でもTチューブ遺残は検索し得る限り自験例も含め11例であった.胆道内占拠性病変を認めた際,異物も診断に考慮するべきと考えられた.
  • 町田 彰男, 村上 雅彦, 高 順一, 李 雨元, 新谷 隆, 草野 満夫
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3127-3131
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    十二指腸下行脚の狭窄が主体となり,診断・治療に苦慮した限局性膵炎の1例を経験した.症例は57歳,男性.心窩部痛を主訴に当院受診.内視鏡検査で球後部に周堤様隆起を伴う浅い潰瘍性病変が観察された.生検では悪性所見が得られず保存的治療で経過観察していたが,改善が認められず入院となった.低緊張性十二指腸造影検査では下行脚に高度の狭窄像を認めた.腹部超音波・CT検査で膵頭部に約4cmの腫瘤性病変と十二指腸壁の肥厚を認めたが, ERCP検査では膵胆管像に異常はなかった.以上より悪性疾患が完全に否定できなかったこと,および臨床的には狭窄所見,腹部所見が強いため手術となった.術中,膵頭上部に硬い腫瘤を触知し,迅速生検病理検査では悪性所見が得られなかったが,膵頭十二指腸切除術を施行した.術後病理検査では,腫瘤は十二指腸壁への炎症性浸潤を伴った慢性限局性膵炎であった.
  • 村岡 篤, 鶴野 正基, 国土 泰孝, 立本 昭彦, 香川 茂雄, 津村 眞
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3132-3135
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    慢性透析患者に発症し急激な経過をとった脾膿瘍破裂の1例を経験したので報告する.症例は76歳,女性. 14年前より血液透析.平成8年3月1日より食欲不振,悪心,下痢が出現. 3月4日に左季肋部痛と高熱が生じた. 3月5日朝,腹部全体の強い疼痛が出現し近医受診後,紹介される.来院時すでにショック状態になっていたが,汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行し,脾膿瘍破裂と判明した.脾摘出術およびドレナージ術後ICUで救命処置を行うも,術翌日に死亡された.透析技術の進歩により長期血液透析患者が増加し,種々の合併症が報告されるようになったが,検索し得た限りでは脾膿瘍の報告例はみられない.しかし,慢性透析に伴う合併症の一部は,脾膿瘍の発症原因と関連しており,今後発症の増加が推測されるため,脾膿瘍も念頭に置いた十分な注意が必要である.
  • 加藤 達史, 横尾 直樹, 福井 貴巳, 東 久弥, 山口 哲哉, 岡本 清尚
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3136-3139
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    多発性脾リンパ管腫に対する脾摘出術後,経過観察中に強皮症の確定診断を得た1例を経験したので報告する.
    症例は49歳の女性.腹痛,嘔吐を主訴に当院受診.腹部超音波・腹部CTにて脾多発性嚢胞を認め,脾動脈造影にて典型的なswiss cheese appearance像を呈したことより脾リンパ管腫と診断,有症状であるため脾摘出術を施行した.種々の病理組織学的検索により,脾リンパ管腫との確定診断を得た.脾リンパ管腫に対する脾摘出術の適応には議論のあるところである.しかしながら,悪性疾患の鑑別が困難な場合,臨床症状を呈する場合,増大傾向を有する場合には,脾摘出術が第一選択であると考えられる.術後に判明した強皮症に関しては,3年前から症状を呈していたものであり,今回の脾摘出術の影響の有無については明らかではないが,今後慎重な経過観察を要するものと思われる.
  • 綿引 洋一, 倉地 清隆, 小坂 昭夫, 梅村 しのぶ
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3140-3143
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    下行結腸癌根治手術後に孤立性副腎転移を来した1例を経験した.症例は61歳,男性.術後4カ月で血清carcinoembryonic antigen (CEA)値が上昇し,腹部超音波・CTで右副腎に腫瘤を認めた.結腸癌の術前検査では指摘できず転移が疑われたが,局所再発および他臓器転移を認めず手術適応と判断した.病巣を含め右副腎を摘出し,病理組織学的検査で下行結腸癌の転移と診断した.転移巣切除後血清CEA値は正常化し,4年2カ月を経過し再再発の所見は認めない.
    結腸癌の孤立性副腎転移は,症例によっては良好な予後が期待でき,積極的な手術の対象になると思われる.
  • 津屋 洋, 波頭 経明, 佐藤 哲也, 桑原 生秀, 下川 邦泰
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3144-3148
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は53歳男性で左側腹部の鈍痛を主訴に当科を受診した.初診時の腹部US検査で左腎孟の拡張を認めた. DIPで左腎は造影されず,またDIP併用CTで拡張した腎孟内にガス像を認めた.経皮的腎孟ドレナージを施行したところ膿の流出を認め,その際の造影で下行結腸が描出され腎孟結腸瘻と診断した.膿の流出と発熱が続くため,ドレナージ後5日目開腹術を施行し,下行結腸切除を伴う腎全摘術を行った.病理組織診断は腎孟扁平上皮癌grade 1, INFα, pT (colon), pR0, pL0, pV0であった.
    腎孟扁平上皮癌は浸潤性に発育しやすいといわれているが,自験例のように結腸へ直接浸潤し瘻孔を形成することは極めて稀であり,ここに報告した.
  • 石橋 由朗, 鈴木 裕, 樫村 弘隆, 高橋 恒夫, 青木 照明
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3149-3152
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    精巣女性化症候群は, androgen不応性男性化異常と考えられている稀な疾患である.今回われわれは,鼠径ヘルニア手術時に本症候群と診断された1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は,15歳戸籍上女性,両側鼠径部腫瘤にて近医受診し,鼠径ヘルニアの診断を受け,手術目的にて当科紹介となった.体型,外陰部等,表現型は女性的であり,乳房の発達も良く,両側鼠径部に柔らかい腫瘤を触れた.手術所見では,両側の外鼠径輪近傍に萎縮した精巣上体を伴う精巣様の腫瘤を認められた.両親との問診より原発性無月経を確認し,精巣女性化症候群の診断を得た.手術は,両側精巣摘除術およびヘルニア修復術を施行した.女性の鼠径ヘルニアの手術の際は,本症候群も念頭におき原発性無月経など問診での確認が重要である.また精巣摘除の時期についてもその病態,予後を理解し考慮していく必要があると考えられた.
  • 長谷川 智巳, 向原 伸彦, 戸部 智, 莇 隆, 有川 俊治, 高橋 洋, 中村 敬
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3153-3157
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.間欺性跛行およびインポテンスを主訴に来院した.精査の結果, Leriche症候群に伴う動脈性インポテンスと判明し,腹部大動脈-両側外腸骨動脈バイパス術を施行したところ,症状の改善が得られた.
    安静時下肢痛や間欠性跛行といった閉塞性動脈硬化症(ASO)の症状を呈する患者は,インポテンスを訴えて来院することは少なく, ASOに潜むインポテンスは外科医がみいだす必要がある.症例によっては内腸骨動脈への血行再建が必要な場合があり,カテーテル治療を含めた治療方針や術式を考える上で,インポテンスを認識することは非常に重要であると考えられる.
  • 蜂須賀 康己, 三好 明文, 福原 稔之, 船津 隆, 小林 展章
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3158-3162
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    咳漱が誘因となって発症したと思われる特発性腹直筋血腫の1例を経験した.症例は72歳,女性.咳をした直後,突然,右腹部痛,嘔気が出現し来院.右腹部全体に圧痛と,腹膜刺激症状を認めたが,左側に所見なし.腹部CTにて,右腹直筋鞘内にレンズ状の腫瘤像を認め,右腹直筋血腫と診断.保存的治療にて約40日で軽快した.最近10年間における本邦報告例, 37例について臨床像を検討した.本症は,比較的稀な疾患であり,平均年齢58.6歳で女性が78.4%を占める.腹膜刺激症状を認めることが多いが,原則的には保存的治療が可能である.診断の際に,本症を念頭に置かないと腹腔内病変と誤診し,不必要な開腹手術となることがある.腹部US, CTおよび, MRIは本症の診断に極めて有用であり,本症例においても不必要な開腹手術を回避することができた.
  • 長 晴彦, 塩澤 学, 深野 史靖, 田村 功, 鈴木 紳一郎, 下山 潔
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3163-3167
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は72歳男性.上腹部膨隆を主訴に近医受診.腹部CTにて腹腔内に嚢胞状を呈する腫瘤を認め,経皮的にドレナージ,エタノール注入療法を施行されるが治癒しなかった.当院入院時の腹部CTでは横行結腸に接する径約10cm大の嚢胞状腫瘍が認められたため,開腹手術を施行した.腫瘍は単胞性で横行結腸間膜に存在し,周囲への浸潤は認めなかった.病理組織学所見では上皮様平滑筋腫と診断された.
  • 田中 千弘, 松村 幸次郎, 樫塚 登美男, 佐野 純, 天岡 望
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3168-3171
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腸間膜脂肪織炎は原因不明の稀な非特異的炎症性疾患である.われわれは,直腸癌術後の早期に発生し,腸閉塞をきたした腸間膜脂肪織炎の1例を経験した.症例は60歳の男性.直腸癌にて腹会陰式直腸切断術を施行した.術後4日目より腹部膨満出現し嘔吐を伴うため,癒着性腸閉塞として保存的治療を施行したが軽快せず,術後16日目に再開腹した. Treitz靱帯より20cm肛門側からの小腸が一塊となって後腹膜に癒着しており,その腸間膜は著明に肥厚,硬化していた.小腸切除を施行したが,その後も腸管狭窄の症状が残存し副腎皮質ホルモンの投与を行うことで治癒した.自験例のように高度の器質的狭窄所見を認める場合は治療期間短縮のためにも腸切除を必要とするが,本症は基本的には良性疾患であり保存的治療を原則とし,手術が必要な場合は過大手術にならないよう治療方法を慎重に選択する必要があると思われた.
  • 吉田 崇, 谷口 棟一郎, 家里 裕, 横森 忠紘, 大和田 進, 森下 靖雄
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3172-3175
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は45歳の女性で, 28歳時SLEを発症した.突然の下腹部痛と発熱を主訴に来院した.腹部に圧痛,反跳痛,筋性防御を認めた.白血球数は増加し, CRPは強陽性であった.抗核抗体は20倍で,血清補体価や免疫グロブリンに異常はなかった.腹部単純X線写真では小腸全体にガス像を認めた.骨盤CT検査で腸管壁の肥厚はあったが,ダグラス窩に液体の貯留はほとんどなかった.ループス腹膜炎も疑ったが,細菌性腹膜炎の可能性が強いため手術にふみきった.開腹すると黄色透明な腹水を認め,腸管は浮腫状であったが,狭窄や穿孔はなかった.ループス腹膜炎と診断し,術後よりプレドニンを投与したが,改善せず術後4日目に死亡した.本症例は腹水の免疫学的検索や腹膜の組織学的検索は行っていないが,臨床経過や術中の所見からSLEの再燃に伴う急性ループス腹膜炎と診断した.
  • 小松 永二, 石塚 直樹, 濱谷 弘康, 高崎 健, 今泉 俊秀
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3176-3179
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    急性腹症を呈し,緊急手術を要した後腹膜原発の嚢胞性リンパ管腫を経験したので報告する.症例は24歳男性.発熱後に腹部膨満,腹痛が出現し,当科を受診した.腹部を診察すると,中下腹部は著明に膨隆,緊満し,強い圧痛を認めた.腹部単純X線写真では,横行結腸およびS状結腸ガス像は右上方に圧排されていた.腹部超音波検査, CT検査では,中下腹部,骨盤内にかけての巨大多房性嚢胞性病変を認めた.出血所見,充実部は認めなかった.後腹膜嚢胞性腫瘍が疑われたが,その急激な経過より炎症性病因の関与も疑われた.鎮痛剤にても腹痛の改善が得られず,同日緊急手術を施行した.腹腔内には最大径30cmの表面平滑な多房性嚢胞性腫瘤を認め,発生部位は膵下縁を中心とした後腹膜であった.膵後面門脈周囲に海綿状に発育しており,同部一部遺残にて可及的切除した.腫瘤内部は多房性で,内容は淡黄色漿液であった.病理学的診断は,嚢胞性リンパ管腫であった.
  • 長瀬 通隆, 尾関 豊, 立山 健一郎, 今井 直基, 在原 文夫
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3180-3183
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは両側副腎に発生した比較的稀な後腹膜神経節細胞腫の1例を経験したので報告する.症例は29歳の男性で,腹痛のため近医を受診した. CT, MRIで18cm大の腫瘤を右副腎に認めた.腹腔動脈と上腸間膜動脈根部を巻き込んで発育しており,左副腎にも同様の腫瘍を認めた.生検の結果神経節細胞腫と診断された.腫瘍を部分切除したが,副腎機能温存のため左副腎を温存した.
    神経節細胞腫は良性であるが,主要血管を巻き込んで発育することがあり,完全摘出が困難となる場合がある.術後は注意深い経過観察が必要である.
  • 村上 茂樹, 酒井 邦彦, 山本 泰久, 岸田 尚夫
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3184-3188
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は, 58歳男性.直腸癌にて低位前方切除術を施行し,左下腹部より腹膜下経路に吻合部背面にドレーンを留置した.経口摂取を開始して術後8日にドレーンを抜去したが,術後10日より頸部不快感を訴え,触診にて肩甲鎖骨三角部に皮下気腫を認めた.白血球数,血清アミラーゼ値が高値を示した.胸・腹部X線にて腹部から頸部に至る広範囲の気腫像を認めたためCT検査を行ったところ,下腹部後腹膜下より縦隔,頸部に至る気腫像を認めた.縫合不全の徴候はなく,ガスはドレーン孔よりの流入と考えられた.縦に割を入れたDuple drainを旧ドレーン孔より留置し, 40cmH2Oにて持続吸引を3日間行ったところ,自覚症状は早期に軽快し,吸引4日目のCT検査では,ガスは著明に減少していた.縦割りドレーンを用いた持続吸引は,皮下気腫に対して有用であるが,今回後腹膜気腫に対しても有効であったので報告する.
  • 井戸 政佳, 黒田 久弥, 伊藤 彰博, 加藤 憲治, 加藤 弘幸, 岩田 真, 長沼 達史, 佐々木 英人, 藤森 健而
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3189-3193
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は66歳男性.入院3日前より嘔吐,腹部膨満,左陰嚢の腫脹をきたし来院.理学的には腹部膨満,左側腹部から鼠径部,陰嚢に至る皮膚の発赤腫脹を認め,血液検査では著明な白血球増多, CRP高値および腎障害を認めた.腹部X線所見では腸閉塞像を呈し, CTでは左腎周囲後腹膜から鼠径部に至る広範な後腹膜膿瘍と左精索の腫大を認めた.鼠径ヘルニアの嵌頓穿孔による腸閉塞および後腹膜膿瘍の診断にて緊急手術施行.鼠径ヘルニアはなく, S状結腸間膜根部付近に間膜欠損部を認め,同部に回腸がRichter型に嵌頓穿孔し後腹膜膿瘍を形成していた. S状結腸間膜内ヘルニアと診断し,回腸穿孔部および間膜欠損部を縫合閉鎖し,広範な膿瘍腔ドレナージを施行し救命した.本邦でのS状結腸間膜ヘルニア報告例は38例にすぎず,特に自験例は嵌頓腸管の穿孔,膿瘍形成を来したS状結腸間膜内ヘルニアであり,極めて稀な1例であった.
  • 鈴木 聡, 斎藤 博, 三科 武, 金田 聡, 若井 俊文, 深瀬 真之
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3194-3199
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝膿瘍を呈した原発性肝放線菌症の1例と,結腸悪性腫瘍の診断で手術を施行した盲腸放線菌症の1例を報告する.症例1は39歳の男性.右季肋部痛と微熱を主訴に来院.白血球の増多・CRPの高値が認められ, CTで肝膿瘍を疑い,肝S5部分切除術を施行した.症例2は43歳の女性で,右下腹部痛を主訴に来院.回盲部に10×7cmの有痛性腫瘤を触知.白血球増多, CRP高値を認め,大腸内視鏡所見で盲腸粘膜下腫瘍(悪性リンパ腫)を疑い,右半結腸切除術を施行した.2症例の切除標本の組織学的検索で,菌塊の周囲に特異なclub formationを認め,放線菌症と診断した.腹部放線菌症は,近年では比較的稀な疾患であるが,特に原発性肝放線菌症の本邦報告例は,過去10年間で僅か9例で,極めて稀な1例といえる.しかしながら,悪性腫瘍を含む肝腫瘤性病変の鑑別に際しては,常に念頭におくべき疾患と考えられる.
  • 遠近 直成, 公文 正光, 杉本 健樹, 高野 篤, 荒木 京二郎
    1998 年 59 巻 12 号 p. 3200-3204
    発行日: 1998/12/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.検診で貧血を指摘され,当院を受診した.精査の結果,人工肛門癌,横行結腸癌,胃粘膜下腫瘍が認められ,手術を施行した.手術は人工肛門部腹壁を含む左半結腸切除および,胃部分切除が施行された.病理組織学的検査にて人工肛門部および横行結腸の病変はいずれも浸達度ssの高分化型腺癌でリンパ節転移はなかった.また胃の腫瘍は,胃固有筋層より壁外性に増大した平滑筋肉腫であった.人工肛門癌は今までに34例が報告されているが,基礎疾患にmalignant potentialを有する症例が多い.自験例もJapanese clinical criteriaではLynch 2型の遺伝性非ポリポーシス大腸癌であった.
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