症例は72歳・男性.平成8年6月,胸部食道癌に対し根治術を施行されたが,平成9年3月呼吸困難が出現した.胸部CTにて気管分岐部に再発浸潤を認め,このため左主気管支の完全閉塞と左下葉の無気肺を認めた.直ちに放射線療法を開始したが,呼吸困難が進行したため4月1日,気管閉塞部にEMS留置を施行した.挿入翌日にはほぼ最大径まで内腔拡張が得られ,挿入後の疼痛や難治性咳漱もなく呼吸困難および無気肺は著明に改善した. EMS留置後4カ月,胸水貯留の増悪と局所病変の進行により縦隔内血管と穿通し気道内大量出血により死亡した.
気道閉塞に対するEMS留置は, dilator挿入時の出血やexpandableであるが故の長期留置による周囲臓器に対する瘻孔形成などの危険性も示唆されたが,低侵襲でQOLを劇的に向上することができ,特に末期癌患者に対して非常に有用であり今後の普及が望まれる.