1998 年 59 巻 5 号 p. 1336-1340
家族性大腸腺腫症(FAP)に合併するデスモイドは完全摘出が困難で高頻度に再発をきたすため,その治療に難渋させられる.今回われわれは消化管吻合部にデスモイドが発生した非常に稀なFAPの1例を経験したので報告する.症例は同一家系に難治性デスモイドの発生を認める28歳男性のFAP症例で,大腸全摘,回肛吻合および一時的回腸人工肛門造設術を行った.待期的に人工肛門閉鎖術を行ったところ,術後腸閉塞症を併発したため再開腹した.閉塞機転は人工肛門閉鎖後の吻合部に生じたデスモイドであったため再吻合は断念し,吻合部切除と回腸瘻造設を行った.近年積極的な手術療法によりFAPの大腸病変の予後は改善されたが,さらなる予後向上のためには高率に合併し不良な予後因子の一つであるデスモイドに対する対策が重要で,特に本例の如く難治性デスモイドの発生を有するFAP家系に対してはデスモイドの発生予防を考慮した術式選択が肝要と考える.