1998 年 59 巻 5 号 p. 1419-1422
虫垂が右鼠径ヘルニアに嵌頓した稀な1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
症例は36歳男性.鼠径部痛にて当院受診.鼠径部に膨隆なく当初診断に苦慮したが,鼠径部超音波およびCT像にて先端が盲端に終わる腸管様構造物が描出されたため緊急手術を施行した.手術所見は,右外鼠径ヘルニア内に先端が絞拒壊死に陥った虫垂を認め,鼠径ヘルニア内虫垂嵌頓の診断で,同一創にて虫垂切除術およびヘルニア根治術(Iliopubic tract repair)を施行した.摘出虫垂の病理組織学的診断はhemorrhagic infarctionであった.術後経過は良好で第10日目に退院した.
鼠径ヘルニア嵌頓はしばしば経験されるが,その内容物は小腸,大網が主で虫垂は稀である.この診断には本症を念頭に,鼠径部超音波およびCTによる所見が有用である.