症例は42歳女性. 1984年より肝静脈狭窄を伴うBudd-Chiari症候群で経過観察中であった. 1994年8月AFP 238ng/ml, 1995年2月AFP 1,000ng/mlと上昇し, 3月の腹部CTで,肝外側区域にSOLを認め, 4月の血管造影で,肝S3にhypervascularな腫瘍を認め,肝細胞癌と診断した.術前の血液検査では,軽度の貧血と血小板減少を認めるが,肝機能は良好であった. HBsAg (-), HCV抗体(-)であった. 1995年5月24日肝外側区域部分切除術施行.
術後経過は,順調で術後17日目に退院した.切除標本の病理所見では,腫瘍は単結節型のEdmondson II型の肝細胞癌であった.また,肝実質に肝硬変の所見はなかった. Budd-Chiari症候群に肝細胞癌を併発する頻度は,諸家の報告により様々ではあるが,肝炎ウイルスに感染していない例は,数少ないと考えられ,肝の欝血による肝細胞障害と再生が病因である可能性が示唆された.