抄録
虚血性小腸狭窄は稀な疾患である.今回われわれは,腹部血管造影後に発症した虚血性小腸狭窄の1例を経験したので報告する.症例は72歳,男性.肝硬変の経過観察中に肝癌を指摘され,肝動脈化学塞栓術(TAE)を目的として入院となった.腹部血管造影ではカテーテルの選択的挿入が不能で, TAEはできなかった.血管造影後に腹痛が出現し,翌日の腹部CT検査で脾梗塞,両側の腎梗塞と診断された.腹痛が持続し,経過とともに小腸ガス像,鏡面像が増強した.血管造影より69日目に行った小腸造影で小腸中央付近に約7cmの狭窄が認められた.臨床経過から,塞栓による虚血性小腸狭窄と診断し,手術を行った.回腸末端から口側約2mの部位に狭窄があり,狭窄部を含めて小腸切除術を施行した.標本では狭窄部で壁肥厚を認め,病理組織検査では粘膜下までの潰瘍と潰瘍瘢痕を認めた.血管造影後の急性腹症では虚血性小腸炎も念頭に置くべき疾患と考えられた.