抄録
症例は78歳男性.悪性リンパ腫化学療法中に約1lの大量下血にて当科紹介入院.上下部消化管内視鏡にて出血源認められず,出血巣シンチグラフィーにて空腸よりの出血が疑われた.開腹にて小腸部分切除術を施行したが,術後4日目に多臓器不全にて永眠された.病理組織学的検査にて空腸脂肪腫からの出血であったことが確認された.小腸脂肪腫は消化管腫瘍の中で極めて稀な疾患である.また,腫瘍の大きさに関わらず下血.血便症状を引き起こす腫瘍であり,本症例は悪性リンパ腫に対する化学療法による汎血球減少と出血傾向を契機として大量下血をきたした症例と考えられた.化学療法施行中の消化管出血の場合,原疾患による出血の他に今まで無症候に経過した小腸脂肪腫の様な良性腫瘍からの出血も念頭に置いて診断,治療にあたることが必要と考えられた.