1999 年 60 巻 6 号 p. 1606-1611
稀な疾患である孤立性肝結核腫の手術後に抗結核薬物療法を施行し,その経過観察中に肝細胞癌が発生した症例を経験したので報告する.症例は65歳男性.右季肋部痛にて外来受診.腹部造影CTで肝S5に造影される腫瘤を認め,肝癌を疑い手術を施行した.病理組織検査でラングハンス巨細胞と乾酪壊死巣を含む結核腫を認めた.抗結核剤は1年間投与した.術後1年6カ月後に肝S7に腹部CTで強く造影される分葉状の腫瘤がみられ腹部血管造影では腫瘍濃染がみられた.これらの画像所見より結核腫の再発ではなく肝細胞癌と診断し, S7亜区域切除を行った.組織所見は索状型の肝細胞癌を示した.孤立性肝結核腫と肝細胞癌との発生病理などの因果関係は不明であるが,両者の鑑別には腹部造影CT, 血管造影が有用である.しかし他の肝腫瘍との鑑別診断に際しては積極的に経皮的生検を行う必要があると考えられた.