抄録
症例は81歳,女性.突然,右下腹部痛と右大腿部痛が出現し,当院を受診した.骨盤部CTにて右側の恥骨筋と内閉鎖筋との間に嵌頓した腸管を認めた.右閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断し,緊急手術目的で入院した.ところが,入院直後に症状が消失したため,骨盤部CTを再検したところ,右側の恥骨筋と内閉鎖筋との間は拡大していたが,腸管の嵌頓は認めず,閉鎖孔ヘルニア嵌頓は自然還納されたことを確認した.手術は待機的に硬膜外麻酔下で鼠径法にて施行した.腹膜外経路にて閉鎖孔を検索し,ヘルニア嚢を切除した後, Teflon meshをCooper靱帯と内閉鎖筋に縫合固定し,ヘルニア門を被覆した.術後経過は良好で,術後第10病日に退院した.鼠径法でも手術操作に十分な視野が得られ,侵襲を最小限に抑えることができた.嵌頓していない症例および発症後早期に本症が診断され,消化管穿孔の可能性が低い症例では,鼠径法は有用であると考えられた.