2001 年 62 巻 12 号 p. 3008-3011
症例は59歳,女性.知的障害のため1966年から入院加療されていた.突然の黒色の嘔吐を認めた.腹部に圧痛と反跳痛があったが,筋性防御は認めなかった.腹部CTで,肝に多量の門脈内ガス像を認めた.緊急開腹術を行ったところ,腸管壊死はなかったが,回腸が紫色に変色しており,拍動も触知せず,血流障害が疑われた.術中に血流は回復したため,腸切は行わず,術後経過は順調で退院した.術後腹部血管造影検査を行ったが,異常は認めなかった.
門脈内ガス血症は主に腸管壊死に伴ってみられる合併症で,その際の死亡率は高く,早期の外科処置が必要である.自験例のような腸管壊死を伴わない門脈ガス血症の例も報告されており,鑑別診断が重要であるが,腸管壊死が完全に否定できない門脈内ガスを伴う症例に対しては外科的手術を行うべきと考えられた.