2001 年 62 巻 12 号 p. 3064-3067
迅速な診断に超音波検査が有用であった,肝硬変に伴う腹水により発症した稀な成人臍ヘルニア嵌頓の1例を経験したので報告する.症例は57歳の男性で, B型肝炎,肝硬変にて内服治療中であった.数カ月前より腹水の増加を自覚していたものの来院せず放置していたが,腹部の腫瘤,腹痛,嘔吐を主訴に来院した.臍部に発赤を伴う有痛性腫瘤を認め,腹部単純X線写真で小腸の拡張と腫瘤部に一致したX線不透過像を認めた.超音波検査で臍部腹壁の欠損像と小腸の脱出像を認め,臍ヘルニア嵌頓と診断して緊急手術を施行した.ヘルニア内容は小腸と腹水であり,嵌頓発症から数時間以内であったため腸管を切除することなく還納し,ヘルニア門を修復した.術後経過は良好で翌日より経口摂取を開始し, 6病日に内科転科となった.肝硬変患者にとっては小腸切除といえども過大な侵襲になりうるため,超音波検査による迅速な診断,早急な手術が患者救命に重要と考えられた.