抄録
サイトメガロウイルス(以下CMV)感染は免疫不全患者で起きやすいが,今回われわれは,悪性リンパ腫の化学療法中にCMV感染による消化管穿孔を起こした症例を経験したので報告する.症例は75歳男性.腹部膨満の精査で胃原発性悪性リンパ腫と診断され,化学療法目的で入院.治療による効果を認めていたが,経過中に右下腹部痛が出現し,腹部CTにて穿孔性腹膜炎と判明.上部消化管内視鏡検査では明らかな穿孔部を認めず,小腸穿孔の診断で緊急手術を施行した.開腹すると,回腸末端に約5 mmの穿孔部を認め,さらにTreitz靱帯から約30cmの空腸は穿孔しかけていた.回盲部切除,空腸部分切除,ドレナージ術を施行した.病理組織検査所見よりCMV感染による穿孔と判明した.術後9日目に縫合不全をきたし,術後22日目に敗血症にて死亡された. CMV感染による消化管穿孔は極めて稀で,本邦で10例目であり,早期診断と早期治療の重要性が示唆された.