抄録
今回われわれは,乳腺分泌癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は75歳,女性.右乳房B領域の腫瘤を主訴に当院受診.腫瘤は直径2cmで弾性硬であり可動性を認めた.皮膚浸潤,乳頭分泌は認めなかった.穿刺吸引細胞診ではPC-IIであったが,触診,乳房エコー, CT所見から乳癌を疑い摘出生検を施行.摘出標本で,細胞内にPASおよびAlcian blue染色陽性の分泌物を含むsecretory carcinomaと診断し,乳房扇状切除術,腋窩リンパ節郭清を追加した.組織学的に腋窩リンパ節転移陽性であり,ホルモンレセプターは陰性であった.分泌癌の治療は,腋窩リンパ節転移率が他の浸潤性乳管癌とほとんど差がないため腋窩郭清を伴う標準的な手術が必要であり,またホルモンレセプターの陽性率が低いため,補助療法としては化学療法が主体となると考えられた.