抄録
今回,われわれはHIV-1抗体陽性血友病患者16名および第8因子製剤家庭内輸注の際事故接触して感染した母親1名の17名において,HIV-1の分離を試み,分離しえたHIV-1の生物学的特性について検討した。分離方法については,症例より得た末梢血よりリンパ球を分離した後,CD8細胞をpanning法にて除去して培養に用いた。その結果HIV-1を17名中15名(87.5%)に分離しえた。分離しえなかった2名は,いずれも無症状の抗体陽性血友病患者であった。分離しえたHIV-1を用いて増殖速度,plaque形成能およびhost rangeの検討を行ったところ,AIDS症例より分離されたHIV-1は,ほかの症例に比して増殖速度は速かったが,plaque形成能はAIDS症例を含むすべての症例より分離されたHIV-1に認めなかった。host rangeについては,12例について検討し,AIDS症例および無症状の症例1例より分離されたHIV-12例がMT2 cellとprimary macrophageに感染性を示したものの,ほかの症例より分離されたHIV-1はprimary macrophageへの感染性のみで各種培養細胞株への感染性は認めなかった。また,primary macrophageへの感染性よりneurotropismの有無についても検討したが,glial cell lineへの感染性は認められなかった。以上,抗体陽性血友病患者より分離したHIV-1は,一般にcytopathic effectは低くhost rangeは狭い傾向を認め,全例にprimary macrophageへの感染性を認めた。