2000 年 41 巻 2 号 p. 140-145
患者は73歳男性。1998年1月発症した急性型ATL。寛解導入後の5月17日,傾眠傾向・頭痛・両膝関節痛にて再入院した。入院時,末梢血中のATL細胞増加は認めず,血清Na低値(112 mEq/l), 血漿浸透圧低下(259 mOsm/l), 血中ADH濃度上昇(5.6 pg/ml)と,髄液中に,異型リンパ球増加(951/μl), 髄圧上昇(37 cmH2O), 可溶性IL2レセプター値増加(898 U/ml)を認めた。頭部CTscan·MRI検査では,視床下部・下垂体に異常を認めず,ATLの中枢神経浸潤によるSIADHと診断した。ATLのSIADHの合併は稀である。本例では,血清と乖離して髄液中のIL-1βとIL-6濃度上昇を認めた。近年,外因性IL-6が血清ADH濃度を増加させる事,ATL細胞やHTLV-I感染性株化T細胞がIL-6を産生する事が報告されている。以上から,SIADHの発症に中枢神経浸潤したATL細胞が産生するIL-6とIL-1βが重要な役割を果たしたと想像された。