2022 年 28 巻 p. 433-438
気候変動を考慮した基本高水の設定手法に関して,新宮川水系をモデルケースとして,気候変動予測モデルを用いたアンサンブル計算結果(以下,「d2PDF」という.)を活用した新たな手法と,過去の降雨・流量観測値の統計解析による従来手法の両者について,検討プロセスや考え方の相違点について整理・考察を行った.
従来の基本高水は,対象降雨の降雨量を設定した上で,a)実績降雨波形群の選定,b)生起し難い引き伸ばし降雨の棄却,c)対象降雨の降雨量まで実績降雨波形を引き伸ばしたハイドログラフ群と確率流量との比較検証等のプロセスを経て決定されている.これらの検討に対し,d2PDFによる降雨波形を用いた新たな手法により,a)内水被害をもたらす降雨パターンが増加すること,b)従来手法では棄却していた1979年10月型引き伸ばし降雨が生起し難いとは言えないこと,c)確率流量の代替として,d2PDFによる流量群が実績降雨の引き伸ばしによるハイドログラフ群の生起可能性の判断基準として適用できることが示された.