2025 年 31 巻 p. 145-150
ダム貯水池における堆砂はダムの長寿命化の実現に向けた課題である.一方で,ダムによって土砂が捕捉されることで,ダム下流の河川では河床低下や河床の粗粒化等の問題が発生している.これらを解決するためには,ダム堆砂を環境資源として捉え,土砂供給を行うことによる流砂環境の再生が必要である.しかしながら,流域内には,砂防,ダム,河川,海岸,環境,さらには利水者や港湾管理者など,さまざまな関係者がそれぞれプラス,マイナスの意見を有しており,これらをどう調和的に進めるかが課題となっている.本稿は,淀川水系を対象に,宇治川天ケ瀬ダムから土砂還元(置土)を行う場合の制約条件及び期待される効果について,下流河川における河床変動高及び河床材料の変化の観点から整理して,これらをもとに「適切な土砂還元のあり方を検討する手法(連立不等式の考え方)」を提案した.この考え方は,多くの利害調整を必要とする総合土砂管理の進め方に対して大きな示唆を与えるものと考えられる.