2025 年 31 巻 p. 37-42
環境DNAメタバーコーディングは試料中に含まれる腐食物質等の様々な要因で生じるPCR阻害により,DNAの増幅が阻害され種が非検出となる場合や検出感度が低下する場合がある.環境DNA学会が発行する調査・実験マニュアルではPCR阻害の対策として,DNAの希釈による阻害物質濃度の低減,DNAの精製(阻害物質除去),阻害に強いPCR酵素(耐阻害酵素)への変更の3手法が記載されているが,これら3手法の阻害低減の効果や検出種及び検出種数の違いについて比較事例は限られている.本研究では河川でPCR阻害が確認された複数の調査地点を対象に,PCR阻害対策の手法比較を行った.その結果,いずれの手法もPCR阻害を低減できたが,抽出DNAの精製や対阻害酵素を用いた手法に比べ,希釈は相対リード数の少ない種の検出頻度が低下し,偽陰性を生じる可能性が高くなることが明らかになった.一方,精製は処理によるDNAの損失がみられ,耐阻害酵素では非特異的増幅が多い傾向がみられ,それぞれの手法,製品の特性をふまえ分析及びデータ解析を行う必要があると考えられる.