抄録
児童虐待の影響は、個人の不利益にとどまらず、経済損失等により社会全体まで及ぶことが明らかになっている。情緒的虐待(emotional abuse)は身体的外傷を伴わないため見過ごされやすいが、発達期の子どもの前頭前野や扁桃体の構造的・機能的変化を通じ、ワーキングメモリーや注意制御機能の低下を引き起こし、数学成績や数学的達成に影響を与えることが報告されている。また、自己肯定感の低下は学習場面での不安感や回避的行動を促し、学業成績低下に繋がる可能性がある。本研究は、文献レビューを用いて、情緒的虐待が(1)前頭前野機能の発達阻害を通じたワーキングメモリー低下、(2)自己肯定感低下という二つの媒介経路を介して数学成績に影響を及ぼすかを検討することを目的とした。方法として、2000年以降の日本語・英語文献をGoogle Scholarで検索し、幼児・学齢期の子どもや過去の児童期体験を回想した成人を対象とする査読論文を整理した。結果、情緒的虐待は自己肯定感低下、感情調整困難、ワーキングメモリー低下を介して数学的達成に負の影響を及ぼす可能性が示され、教育的介入や安定した養育環境、学校エンゲージメントが保護因子として作用することも示唆された。数学が苦手な子どもには、情緒的要因を考慮した支援や意図的な教育的介入が重要である。