教育経済学研究
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最新号
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  • 奥濱 真一, 竹内 大貴, 赤嶺 優子, 太田 麻美子
    2026 年8 巻 p. 1-15
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/02/28
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、まず沖縄県において特徴的に認知されていた「沖縄型幼児教育」について、永く沖縄社会に浸透した背景や経緯をみていく。米軍統治下の沖縄県における公立幼稚園は、プレスクール的に公立小学校へ併設され、小学校校長が幼稚園園長を兼務する小学校入学前1年間の学校幼稚園として定着していた。保育園を4歳で卒園し、幼稚園降園後に学童クラブに通うといった独特な幼児教育が行われていた。沖縄県における公立幼稚園が、戦後の流れからアメリカの影響を色濃く受けるいっぽう、近年は日本政府における子育て支援への過渡期に直面している。危機的といわれる少子化対策からの経済成長戦略として子育て支援は親への就労支援といった福祉的側面が色濃く、質の高い幼児教育が結果的に経済成長戦略として注目する諸外国との意味合いの相違が目立つ。日本政府が示す「こども未来戦略加速化プラン」においても、幼児教育としての積極的な取り組みがみられないことから、あらためてこれまでの沖縄県社会に浸透していた「沖縄型幼児教育」に注目し幼小接続の円滑化とより「質」の高い幼児教育の必要性について考える。
  • 生涯学習社会における収益率の推定モデル構築に向けて
    陳 炯楷, 川又 亮
    2026 年8 巻 p. 16-29
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/02/28
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では,生涯学習社会における高等教育学歴の取得経路(「ストレート」か「再取得」か)ならびに,その取得時期(人生初期かそれとも中・高年期か)の多様性を踏まえて,高等教育の収益率の再検討を行なった。中国総合社会調査(CGSS調査)データを用いた分析では,高等教育学歴を,ストレート高等教育学歴と,再取得高等教育学歴に分け,さらに再取得高等教育学歴の取得時期(20代・30代・40歳以上)をも考慮しながら,ミンサー型賃金関数法でそれぞれの収益率を推定した。その結果,以下の3点が明らかとなった。第一に,短大卒と大卒のいずれにも共通して,ストレート学歴の収益率が再取得学歴よりも高く,両者を区別しない従来の分析枠組みでは,高等教育の収益率の異質性を看過する可能性が否めないといえる。そして第二に,取得経路によって高等教育の収益率が異なるだけではなく,再取得学歴の取得時期によって収益率が異なることも確認された。具体的には,人生の遅い時期に学歴を再取得した方が,収益率は高くなる傾向がみられた。第三点として,この二点目の分析結果は,教育・学歴と賃金の結びつきの説明図式としてしばしば用いられる人的資本理論およびシグナリング理論では説明が困難な事象であることを指摘し,その仮説的な解釈として,キャリア段階に応じて再取得学歴の動機およびそれに結び付く職業的リターンの性質が異なる可能性を考察した。
  • 基礎学力向上を目的としたシラバスモデルの開発・提案
    佐々木 浩江, 三輪 正太郎, 金城 紅杏, 金 珉智
    2026 年8 巻 p. 30-52
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/02/28
    ジャーナル オープンアクセス
    近年、大学教育において、入学時点で基礎学力に課題を抱える学生が一定数いることが指摘されている。その背景には、高大接続の在り方の変化や高校段階での学力水準および学習履歴の多様化など、複合的な要因が存在すると報告されている。大学での学習成立には基礎学力の補完・再構築が不可欠であり、体系的なリメディアル教育の設計が求められる。本研究は、文献的検討に基づき、大学生を対象とする英語および数学を中心とするリメディアル教育シラバスモデルを理論的に開発・提案することを目的とした。2008年以降の実践論文(英語22件、数学7件)をGoogle Scholarで「リメディアル教育」「大学生」「補習」「実践」の4つのキーワードにより検索を行い、選定基準に基づいて対象文献を確定した。それらを基に提案したリメディアル教育のシラバスモデルは、学習進捗の記録と期末試験等の結果を統合して学習成果を検証し、授業改善と教育の質保証への応用可能性を示した。一方、本研究はシラバスモデルの提案に主眼を置く文献研究であり、提案モデルの教育効果を実証的に検証していない点に限界がある。今後は実装研究により教育効果を多面的に検証し、到達度別支援、学内支援組織との連携、大人数運用における実施条件について検討する必要がある。
  • 于 闊, 金 珉智
    2026 年8 巻 p. 53-73
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/02/28
    ジャーナル オープンアクセス
    近年の中国では、人口移動に伴う教育需要の偏在、農村部における学校統廃合や教員確保の困難、ICT整備水準の地域差が複合的に進行しており、資源配分の偏りが学習機会を介して教育成果の格差へ波及する可能性が指摘されている。しかし、自治体レベルの統計・財政資料と政策文書を統合し、都市部と農村部の比較を通じて、制度・政策が教育格差に関与する経路を体系的に整理した研究は十分ではない。 そこで本研究は、吉林省長春市を対象に、都市部・農村部の小・中学校における教育格差の実態を「教育資源」「教育環境」「学習成果」の三側面から検討するとともに、財政投入、教員配置、学校配置、ICT活用等の教育制度・政策が格差に作用するプロセスを概念的に整理し、両者の関連構造を明らかにすることを目的とした。分析には、長春市統計年鑑、長春市教育局の教育統計データ、長春市および各区・県政府の財政資料、関連政策文書を用い、学校規模・学級規模、教員配置と属性、施設・ICT整備、進学率・修了率等の指標について地域間比較を行った。 その結果、長春市の義務教育においては、都市部での資源集積が相対的に優位に働く一方、農村部では学校の分散配置や資源整備の制約が重なり、教育資源・教育環境・学習成果の各側面で地域差が確認された。また、制度・政策は資源配分を通じて学校条件に影響し、その学校条件の差が学習機会の差として表出することで、最終的に教育成果の格差へ接続しうるという作用経路が示唆された。今後は、学校・地域単位の追跡データ等を活用し、資源配分の変化が学校条件および学習機会を介して教育成果に及ぼす影響を、より精緻に検証することが課題である。
  • テキストマイニング分析による心理・生理・病理の観点からの一考察
    金城 紅杏, 三輪 正太郎, 佐々木 浩江
    2026 年8 巻 p. 74-85
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/02/28
    ジャーナル オープンアクセス
    特別支援教育では、児童生徒の多様化に伴い「個に応じた指導」の重要性が高まっており、その基盤として正確な実態把握が求められている。しかし、教員養成段階からの心理的側面を重視する傾向や、教育実践における行動観察への依存により、生理・病理的要因が見落とされやすいという課題がある。行動の背景を正確に把握することは、適切な支援の選択のみならず、二次障害を未然に防ぐ予防的アセスメントの観点からも極めて重要である。そこで、本研究では、教師による知的障害児の事例記述を対象に、児童の実態が心理的・生理的・病理的側面からどのように理解されているかをテキストマイニング分析によって明らかにすることを目的とする。具体的手法として、インクルDBから抽出した知的障害児の事例30件に対し、KH Coderを用いた共起ネットワーク分析を実施した。分析の結果、心理的側面に該当する記述は76.85%と最も高い出現頻度を示し、生理的側面(40.74%)および病理的側面(32.41%)を大きく上回った。共起ネットワーク分析の結果からは、心理的側面は「意欲」「友達」「関わる」といった語によって構成され、対人関係・情緒的意欲を軸とするクラスターを形成していた。一方、生理的側面は心理的側面の語と複合的に結びつく構造を示し、身体機能に関する語が活動場面や行動表出と同じクラスター内に配置されていた。また、病理的側面は「診断」「発達」等の語とともに周縁部に独立したクラスターを形成し、他の側面との共起は限定的であった。これらの結果は、教師の実態把握において心理的側面が構造的中心を担う一方で、生理的・病理的側面が心理的理解の中に包摂あるいは周縁化される傾向を示唆している。この構造は、行動・心理的側面と、その背景にある生理・病理的要因との区別を曖昧にし、原因と結果の関係を十分に構造化できていないことを示唆する。今後の展望としては、身体機能や感覚特性と結びつけて整理できるような「生理的特性チェックリスト」の開発や、心理的生理的・病理的側面から児童の実態を多角的に捉える「包括的実態把握モデル」の提示が求められる。こうした視点の統合により、個別最適な学びの実現へと繋がることが期待される。
  • 実行機能・自己肯定感を介したメカニズムの探索
    中澤 宏規, 太田 麻美子
    2026 年8 巻 p. 86-104
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/02/28
    ジャーナル オープンアクセス
    児童虐待の影響は、個人の不利益にとどまらず、経済損失等により社会全体まで及ぶことが明らかになっている。情緒的虐待(emotional abuse)は身体的外傷を伴わないため見過ごされやすいが、発達期の子どもの前頭前野や扁桃体の構造的・機能的変化を通じ、ワーキングメモリーや注意制御機能の低下を引き起こし、数学成績や数学的達成に影響を与えることが報告されている。また、自己肯定感の低下は学習場面での不安感や回避的行動を促し、学業成績低下に繋がる可能性がある。本研究は、文献レビューを用いて、情緒的虐待が(1)前頭前野機能の発達阻害を通じたワーキングメモリー低下、(2)自己肯定感低下という二つの媒介経路を介して数学成績に影響を及ぼすかを検討することを目的とした。方法として、2000年以降の日本語・英語文献をGoogle Scholarで検索し、幼児・学齢期の子どもや過去の児童期体験を回想した成人を対象とする査読論文を整理した。結果、情緒的虐待は自己肯定感低下、感情調整困難、ワーキングメモリー低下を介して数学的達成に負の影響を及ぼす可能性が示され、教育的介入や安定した養育環境、学校エンゲージメントが保護因子として作用することも示唆された。数学が苦手な子どもには、情緒的要因を考慮した支援や意図的な教育的介入が重要である。
  • 日本における指導方法の分析を通して
    三輪 正太郎, 金城 紅杏, 佐々木 浩江
    2026 年8 巻 p. 105-127
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/02/28
    ジャーナル オープンアクセス
    2017年の学習指導要領改訂以降、肢体不自由児の主体的な「表現」の育成が課題となっていることから、改訂後の実践論文を分析し、意図的な表現を育む指導の現状を明らかにすることを目的として研究を行った。学習指導要領が改訂された2017年以降に発表された研究論文における肢体不自由児における「表現」の指導についてGoogle Scholar、CiNii、J-STAGEを用いて整理した結果、本研究では23本の論文から27件の実践を分析した。成果として、他者との関係形成やICT活用による制約の克服、学校外と連携した「社会に開かれた教育課程」の必要性が確認された。一方で、尺度などを用いて表現力の変容を客観的に分析している研究はほとんどみられなかったことや、主体的・継続的な表現意欲を引き出すための個に応じた支援を行なうことが今後の課題として示唆された。
  • 三輪 正太郎, 佐々木 浩江, 金城 紅杏
    2026 年8 巻 p. 128-145
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/02/28
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、通常の学級及び特別支援学級に在籍する小学生を対象として、肢体不自由児の病理的特性の観点から「心理・健康面に関する合理的配慮」について整理し、検討することを目的とした。国立特別支援教育総合研究所のデータベースから 23件の実践事例を抽出し、脳性疾患、脊椎・脊髄疾患、筋原性疾患の分類に基づき分析を行った。その結果、脳性麻痺における自律神経系の機能不全に伴う体温調節の困難や、進行性疾患における疲労の蓄積しやすさなど、外見からは見えにくい特性に基づいた環境調整の重要性が示唆された。また、心理面では「自己選択・自己決定」の機会確保が自立に向けた心理的基盤となることが明らかになった。教師には、病名のみならず、病理がもたらす内部メカニズムを理解した上での専門的な支援が求められることが示唆された。
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