宗教研究
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生命倫理の形成と宗教の役割(<特集>生命・死・医療)
宇都宮 輝夫
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2006 年 80 巻 2 号 p. 221-246

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抄録

本稿の課題は、社会が生死に関わる新技術を受容したり排斥したりする際、宗教はどのように、またどの程度関与するのか、するべきなのかを明らかにすることである。この問題は、生命倫理の議論においては必ずや問われなければならない問いのひとつである。というのは、宗教は伝統的に世界と人間についての全体的な見方を人々に示していたからであり、また、近年の世界規模での宗教復興が宗教の作用力の大きさを人々に再認識させているからである。生命倫理に関する社会的合意形成をめざす場合に最も顧慮すべき要素は、現代社会の多元的性格である。たとえ社会全体が非宗教化することがなくても、特定の宗教が社会を一元的に規定することはなくなりつつあり、この傾向は長い目で見れば不可逆である。社会の内部に宗教的であれ非宗教的であれ、さまざまな倫理が並存し、相互に相対化し合う状況が現にあるし、今後も強まっていく。しかも生命倫理の法制化は特定の宗教の立場とは距離を取って公共的になされねばならないというのが、現代の政治原則である。となると、結局のところ、現代の生命倫理においては、個人の自律性の尊重が最も重要な原理になってこぎるを得なくなる。

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© 2006 日本宗教学会
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