宗教研究
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感情のセラピーの源泉をめぐって : スピノザ『エチカ』を手がかりに(<特集>宗教と倫理)
森岡 正芳
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2009 年 83 巻 2 号 p. 627-647

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抄録

自然存在および文化社会的存在の二重性のなかで人は、葛藤を抱えてきた。心理療法はセラピストとクライエントが実際に会って話すということを基本にしている。他者との会話が感情の自己調整を可能にしていくその基盤については、まだわからないことが多い。小論では、感情のセラピーの源泉としてスピノザの『エチカ』を参照し、他者との応答的対話がもたらす自己回復へのプロセスを探ろうと試みた。『エチカ』第5部の定理によると、感情に明晰判明たる観念を形成すると、人は感情による受動性にさらされた状態から能動存在へと転換する。ここに主体性回復への治癒機転を求めたい。スピノザは身体の変様から感情を定義する。感情に従属する(受動)のではなく、理性に導かれる(能動)自己認識をもとに、自己保存の力能すなわちコナトゥスとつながる道筋がセラピーの基盤であることが示される。セラピーにおいて他者の応答が不可欠なのは、コナトゥスが限定され、現実の力になることに関わっている。以上についてセラピーの実際場面や心理学者牧康夫の自己治癒への道筋を例に検討を行った。

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© 2009 日本宗教学会
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