ヨーロッパ中世のキリスト教美術のなかから、マリア信仰や三位一体という教義が視覚化された彫像、マリアやアンナ信仰が反映された画像、ベネディクト派女子修道院で用いられた画像、ヨセフ崇拝に基づいたイエス降誕の図を取り上げ、このような造形物が信仰生活においてもたらす教育的機能・効果を考える。さまざまな画像から、正統な教義とはなっていなくとも、民衆の信仰や霊性に根ざした図像は、人びとに宗教の教えを理解させ信心を深めるために役立ったであろうことは推測される。とくに家族にかかわる画像などからは、家族のつながり、子どもの教育への配慮といった意味も読み取れる。宗教のなかの表象造形は、人びとの信仰心に基づいて生成、受容され、民衆の霊性を表現したものととらえることができるが、そこには信仰の教化、強化に役立つ機能も大きな意味を持っており、視覚イメージの効用の多様な可能性が指摘されうる。