2014 年 88 巻 3 号 p. 727-752
本論考では、ブーバーとローゼンツヴァイクによってドイツ語に訳されたヘブライ語聖書の諸特徴を、彼ら独自の翻訳理論であるライトヴォルト追跡法を通して分析する。ライトヴォルトとは、聖書テクストの内で、主導的に繰り返されるキーワードであり、同義語ではなく、同じ語根から派生した言葉である。彼らはこの語に着目し、ヘブライ語聖書のマソラ本文における語の配置や音韻構造という形式を、翻訳においても引き継ぐ。また彼らはヘブライ語の語根から派生した諸単語を精確にドイツ語に訳すよう試みている。聖書では、即物的な規定から神的な使信へと移行する箇所で、リズムが変わることがあるが、それは口述伝承においてメッセージの質的変化を表現する技法である。このように彼らの翻訳では、聖書テクストの語順、シンタックス、音韻構造という「形式」を変更することなく、ドイツ語においても再現することによって、より精確な神的使信という「内容」を表現できることを示唆している。