本稿は、初期キリスト教思想において神学的意義をもつようになった「オイコノミア」概念を、古代ギリシアから遡って用語と文脈の変遷を分析し、概念史上でどのように位置付けられるかを模索するものである。ギリシア語元来のオイコノミアのもつ意味は「家政」であり、家族や家財などを含む広い意味での家を取り仕切ることを指していた。ストア主義において「家政」元来のもつ意味を保持したまま、「家」が世界全体に拡張され、自然による世界統御を指すようになったが、この思考は初期のキリスト教でも神が被造物を支配することと結び付いた。この極めて一般的な語が神学的に重要な意義を獲得した背景の一つには、世界における不条理や悪などが神による統御とどのように両立され得るかという問題があったと考えられる。グノーシスなどによって不完全な造物主に帰せられた世界統御は、教父たちによってロゴス・キリスト論を通じて神に帰着することが確認される。