宗教研究
Online ISSN : 2188-3858
Print ISSN : 0387-3293
ISSN-L : 2188-3858
特集号: 宗教研究
98 巻, 2 号
特集:宗教と社会規範の摩擦
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
論文〔宗教と社会規範の摩擦〕
  • 編集委員会
    2024 年 98 巻 2 号 p. 1-2
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー
  • ジャーナリズムと学問の間
    小島 伸之
    2024 年 98 巻 2 号 p. 3-27
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー

    安倍晋三元首相銃殺事件後、「カルト問題」が改めて社会的に注目を集めた。メディアラッシュの中で、「宗教2世」「「宗教2世」問題」という用語が一気に人口に膾炙する。これらの用語には、社会に潜在化した問題の再発見に資したバズワードとしての有効性や社会的意義は存在する。他方、学術的概念としてはどうであろうか。

    本稿においては、「宗教2世」「「宗教2世」問題」概念の定義・説明を取り上げ、その定義・説明が学術概念として成立し得るかについて検証した。

    さらに本稿は、子どもの権利条約について、同条約が教団や親の信教の自由を絶対視するような考えを相対化し、そうした考えに対する異議申し立ての根拠として機能し得る一方、同条約には子どもの信教の自由を相対化する他の規定も同時に存在するため、問題そのものを一気に解決する根拠とは成りえないことを論じた。

  • 社会規範構築の主体は誰か
    櫻井 義秀
    2024 年 98 巻 2 号 p. 29-54
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー

    日本における社会規範とは何か。宗教と社会の摩擦とはいかなるものか。一般的な命題は具体的な問題の考察から糸口が見いだせる。本稿では、統一教会が日本において社会規範と摩擦を起こした過程、すなわち統一教会問題の社会的構築を考察する。二節において統一教会史を概説し、教団批判や宗教研究が果たした役割を示す。三節で日本の政教関係を概説した上で、統一教会によるレント・シーキング活動の事例を国会の記録と北海道旭川市の事例から紹介する。最後に、統一教会が政治宗教として極東地域におけるアメリカと東アジアの戦略的連携を進めるエージェントとして活用されたことを確認しよう。

    五〇年に及ぶ不作為の政治とメディアの無関心によって統一教会問題は放置された。安倍晋三元首相殺害事件に至って、日本社会は改めて問題の根深さに気づかされた。日本の宗教研究や日本の宗教界は、法律的規制に還元されない社会規範の視座を提示できるだろうか。

  • 現代宗教哲学の諸解釈から考える
    佐藤 啓介
    2024 年 98 巻 2 号 p. 55-80
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー

    本論文は、キルケゴール『おそれとおののき』に対する現代宗教哲学における諸解釈を参照し、信仰と悪の内的関係について考察する。キルケゴールは「倫理的なものの目的論的停止」という概念のもと、信仰が倫理を破棄する可能性を示唆した。ブーバーやレヴィナスは、その概念の無効化を図り、信仰と倫理が一致する道を模索した。他方デリダは、他者への倫理的関係のためには、別の他者との倫理的関係を犠牲にせざるをえないとする解釈を提示した。この解釈は有意義である一方、他者関係が平板化してしまう難点がある。これに対しデ=ヴリースは、キルケゴールが神的なものと並ぶ悪魔的なものを語る点に注目し、デリダのいう他者のうちに、それとは他なる倫理的ではない面を追加する。この解釈に従うならば、信仰(あるいは信一般)は倫理的であろうとすると同時に非倫理とも接点をもちうることになる。

  • ソロヴェイチクの哲学とその後の展開
    志田 雅宏
    2024 年 98 巻 2 号 p. 81-106
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー

    アメリカの正統派ユダヤ教の指導者ヨセフ・B・ソロヴェイチクは、ラビ・ユダヤ教の法規範であるハラハーについての新たな理解を提示した。『ハラハー的人間』において、彼はアプリオリに規定された認識の枠組みとしての「理念的ハラハー」の概念を説明し、個人の自己実現としての悔い改めこそがその目標であると論じた。さらに、『孤独な信仰者』において、神と人間が相互に信頼する「契約的共同体」を描き、聖俗の領域を結びつけるハラハーがその実現のための役割をはたすと主張した。ハラハーの本質を問いなおすソロヴェイチクの哲学的探究は、その後さまざまな思想運動において受容されてきたが、そのなかでも正統派ユダヤ教のフェミニズム思想の事例が注目される。そこでは、理念的ハラハーの概念が批判され、ハラハーをよりダイナミックな体系としてとらえなおすことを通じて、宗教生活における女性たちの自己決定のための新たな規範のあり方が探究されている。

  • 二分法を超えた規範理解に向けて
    高尾 賢一郎
    2024 年 98 巻 2 号 p. 107-130
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー

    日本では自らの社会に根づいた宗教文化を背景に、しばしばイスラームが「厳しい」宗教と形容されてきた。これに相応するものとして、西洋社会では「世俗化していない」といった評価がイスラームに寄せられるが、このことは一般言説の枠を超え、世俗化論の不共有という現代イスラーム研究の特質の一つを浮かび上がらせる点で重要である。イスラームないしムスリム社会に世俗化論がそぐわないとは、半ば定式化された学説として広く用いられてきたが、世俗化論自体が見直されて久しい現在、改めてこのことを問い直す意義もあるだろう。本稿ではムスリム社会における規範の動態性を、風紀という概念を頼りに検討することで、その作業に取り組む。なお具体的な事例としては、「厳しい」「世俗化していない」ムスリム社会を象徴する国と見られながらも、今日では様々な開放政策を通して、脱イスラーム的とも映る変化が進むサウジアラビアを取り上げる。

  • 三つの摩擦面
    伊達 聖伸
    2024 年 98 巻 2 号 p. 131-156
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー

    ケベックで二〇一九年に制定された国家のライシテに関する法律は、ムスリム教員によるヴェール着用を禁止する内容を含んでおり、現在裁判で争われているこの法律の波紋は社会のさまざまな領域に及んでいる。本稿は、この法律と裁判の基本的性格と論点を押さえ、この法律がどのような論争を引き起こし、いかなる葛藤を生み出しているのかを検討しようとするものである。本稿が主張するのは、現代ケベックにおける社会規範と宗教の摩擦は、世俗的な国家や社会と宗教的な信仰者のあいだで生じているという図式で理解するのでは不十分というものである。実際、議論を精緻に見ていくと、ケベック州政府とカナダ連邦政府のあいだの摩擦、インターセクショナリティの一要素として宗教を評価するかどうかをめぐるムスリム女性当事者同士の摩擦、社会の宗教的不寛容をめぐる解釈の摩擦という少なくとも三つの摩擦面が浮かびあがってくる。

  • 教会における性的虐待に関するソヴェ委員会報告書を読む
    田中 浩喜
    2024 年 98 巻 2 号 p. 157-181
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー

    本稿では、二〇二一年十月に提出されたソヴェ委員会報告書について論じる。この報告書は、一九五〇年から二〇二〇年のフランスで、カトリック教会の聖職者から性的虐待を受けた子どもの数は推定約二一万六千人にのぼる、と発表して世論を震撼させた。本稿の目的は、この報告書を読み解き、現代フランスにおけるカトリシズムと社会規範の関係を解明することにある。本稿が示すのは、カトリシズムは現代フランスにおいて、教会の規範に対する共和国の規範の優先性を認めざるを得なくなっているという見方である。カトリック教会は近年、公共空間での存在感をたしかに取り戻しているが、教会の規範と共和国の規範に摩擦が生じるとき、教会は共和国に道を譲ることを余儀なくされている。報告書の内容とその受容からは、この教会の規範に対する共和国の規範の優先性が、教会における性的虐待の問題においても観察可能であることがわかる。だが同時に、この報告書はカトリシズムの内側から、教会に刷新を迫るテクストとして読むこともできる。

  • その生涯における四つの〈死〉
    間 永次郎
    2024 年 98 巻 2 号 p. 183-208
    発行日: 2024/09/10
    公開日: 2024/12/30
    ジャーナル フリー

    V・D・サーヴァルカルは、現代インドのヒンドゥー・ナショナリズム運動のイデオロギー的基盤にある「ヒンドゥトヴァ(ヒンドゥー的なるもの)」の思想を最初に明確に定義づけた人物である。本稿では、その思想が打ち出された『ヒンドゥトヴァの本質』(一九二三年)の執筆に至る彼の思想形成過程を、前期・中期・後期に分け、時系列に分析を加えた。これにより、第一に、前期においてサーヴァルカルが、これまで「全く対照的」と考えられてきたガーンディーの思想と共通する宗教融和の理想を訴えていたことを示した。第二に、中期から後期にかけて、サーヴァルカルの中に根本的な思想変容があったことを明らかにした。つまり、第一次非協力運動中に南インドのムスリム農民(モープラー)による大規模な宗教暴動が発生したにもかかわらず、専ら「宥恕」の理想を語り続けるガーンディーの非暴力主義に対抗して、サーヴァルカルは自らの「合理的」観点に根差して、「ヒンドゥー」の自衛を主目的とした軍国主義的イデオロギーを唱えるに至った。

書評と紹介
feedback
Top