宗教研究
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論文〔特集:宗教と疫病〕
スペイン風邪禍でなぜ宗教行事は催行されたのか
弓山 達也
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2021 年 95 巻 2 号 p. 171-196

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抄録

本稿の目的は、一九一八〜二〇年のスペイン風邪の流行下で宗教行事が催行されていたことに注目し、なぜこれらが可能になったのか、その要因を明らかにすることである。そのため新聞記事データベースをもとにスペイン風邪によって制限された活動と、通常通り催行された宗教行事を含む諸活動とを対比させる年表を作成した。同時に本稿ではスペイン風邪に罹患した皇室・政治関係者の記録、スペイン風邪に言及した文学者の作品や日記を検討した。その結果、諸活動の制限や管理の対象になった学校・病院・軍隊・工場などが近代的空間を象徴する場であるのに対して、諸活動が催行された宗教行事をはじめ、祝賀会や行楽が伝統的空間に属していることが判った。さらに催行された祭礼や盆行事に関する記事を参照したところ、伝統的空間は近代的空間とは異なる世間という公共性を有し、そこには死の受容すら内包する柔軟さをも持ち得ていたことが示唆された。

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