宗教研究
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論文
死生の悲しみをわかちあう
地域で死に関わる医師の死生観の検討
井口 真紀子
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2021 年 95 巻 3 号 p. 49-74

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抄録

医師の死生観は個人的な喪失体験に大きく影響を受けることが指摘されている。しかし医師の死生観に関する先行研究は一般論としての死についての検討が中心である。本稿では、地域で親を看取り開業医院を承継した三名の医師の喪失体験を検討し、彼らの死生観について検討した。人生の選択も完全な自由意志で決められない彼らの生き方は、与えられた条件をまず引き受けて、その中で何ができるか考えるという「受動性の自覚」を彼らの中に育んできた。この「受動性への自覚」は死にゆく人が苦悩するプロセスに関わるにあたって、積極的に受動的になることを選択するという役割意識と実践として現れている。彼らの役割意識を支えるのは、死者との「継続する絆」と苦悩の共鳴を通じた患者との相互承認である。この感覚が地域の悲しみに関わり続けることを引き受けることを支え、日本の地域社会で死に関わる医師の死生観を特徴付けるものである。

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