本稿は平田篤胤(一七七六―一八四三・安永五―天保十四)の思想における、ウブスナ神という存在に注目し、篤胤の思想においてウブスナ神が担った役割を捉えなおす事を目的とする。その際、篤胤が近世社会におけるウブスナ神の受容から発展させた逸脱を捉える。また、篤胤のウブスナ神に関する語りを民俗や怪異の探求という視点のみで捉えるのではなく、篤胤が神話の解釈を基に創造したコスモロジーにおける、ウブスナ神の位置や役割を明らかにすることに本稿の目的がある。篤胤は世界生成の根源神であるムスビ二神の意志に基づき、オホクニヌシが人間の死後を掌り、そしてその役割をウブスナ神に委譲したと考えたのである。本稿の結論は、篤胤が近世人の日常生活に身近なウブスナ神を媒介として、自らを含む民衆一人一人の生死を、『古史伝』で創造したコスモロジーへと架橋することを可能としたということである。