2023 年 97 巻 2 号 p. 201-226
日本では一九二〇年代に、「宗教民族学」という独自の学問領域が成立した。宗教民族学は、未開宗教の研究を出発点に、諸民族の宗教の比較研究に展開し、植民地化の進展の過程で戦争協力に結びついた。「民族」概念は、近代化の進行と共に様々に読み変えられ、イデオロギー性を帯びて、ナショナリズムを高揚させたのである。総力戦体制の下では、「精神」という言葉が、「国民精神」「民族精神」「日本精神」などの複合語を生み出し、「民族」と関連づけられて変化していった。宗教民族学は「民族宗教」をキーワードとして展開したが、独自の意味合いが伴った。宗教学では、「民族宗教」は、世界宗教(創唱宗教)と対比される類型だが、日本の民族宗教には、「固有」という意味が付き纏うことになった。現代の神社神道は「神道は日本固有の民族宗教である」と説明する。本稿は、宗教民族学を巡る戦前と戦後の言説を検討して、学知の連続と非連続の諸相を探る。