2024 年 98 巻 2 号 p. 183-208
V・D・サーヴァルカルは、現代インドのヒンドゥー・ナショナリズム運動のイデオロギー的基盤にある「ヒンドゥトヴァ(ヒンドゥー的なるもの)」の思想を最初に明確に定義づけた人物である。本稿では、その思想が打ち出された『ヒンドゥトヴァの本質』(一九二三年)の執筆に至る彼の思想形成過程を、前期・中期・後期に分け、時系列に分析を加えた。これにより、第一に、前期においてサーヴァルカルが、これまで「全く対照的」と考えられてきたガーンディーの思想と共通する宗教融和の理想を訴えていたことを示した。第二に、中期から後期にかけて、サーヴァルカルの中に根本的な思想変容があったことを明らかにした。つまり、第一次非協力運動中に南インドのムスリム農民(モープラー)による大規模な宗教暴動が発生したにもかかわらず、専ら「宥恕」の理想を語り続けるガーンディーの非暴力主義に対抗して、サーヴァルカルは自らの「合理的」観点に根差して、「ヒンドゥー」の自衛を主目的とした軍国主義的イデオロギーを唱えるに至った。