2023 年 13 巻 1 号 p. 1-14
一般的にペプチド・蛋白質・核酸などのバイオ医薬は粘膜透過性に乏しく,多くの医薬品は侵襲性の注射剤として実用化されている.これまで60年以上にわたり,粘膜透過促進技術が研究され,キレート剤,脂肪酸,毒素断片などを活用した粘膜吸収促進分子が創出されてきた.すでに,これらの一部は吸収促進剤として実用化されており,わが国では,抗生物質の坐剤にカプリン酸,グルカゴンの点鼻剤にドデシルホスホコリン,グルカゴン様ペプチド-1アナログの経口投与製剤にサルカプロザートナトリウムが使用されている.米国では,カプリル酸ナトリウムを吸収促進剤として含有する持続性ソマトスタチンアナログ経口投与製剤も承認されており,今後バイオ医薬などの非侵襲性投与製剤化が加速するものと想定される.これらの吸収促進剤は,粘膜上皮に作用することで有効成分の粘膜透過性を促進する機能性添加剤であり,製剤の投与量において薬理作用を示さない一般的な添加剤とは異なるため,非侵襲性投与製剤の開発では吸収促進剤特有の安全性評価が重要となる.そこで本稿では,粘膜バリアの分子基盤,吸収促進技術の現状を概説したうえで,非臨床試験や臨床研究の結果,承認事例などをもとに,吸収促進剤の安全性に係る考察を行う.