2025 年 15 巻 2 号 p. 107-121
背景:医薬品の承認審査におけるリアルワールドデータ(RWD)の利用を推進する動きが世界的に高まっている.日本では医療情報データベースの医薬品の承認審査申請における利用に関する議論はほとんど進んでいない.目的:本研究では,日本における利用に関する議論を促進することをめざし,米国食品医薬品局(FDA)における医薬品の承認審査における医療情報データベースの利用に関する現状を明らかにすることを目的とした.方法:先行研究からRWDが活用された可能性のあるFDA承認品目を特定し,それらの品目に対する審査報告書をレビューし,RWD活用の背景要因(種類,申請資料における役割,データ形式,交絡因子調整の適用有無)を特定した.また,承認判断に対するRWDの貢献度を分類し,背景要因ごとに貢献度を評価した.結果:2019年から2021年にFDAへの申請にRWDが活用された27承認品目を特定した.有効性に関するRWD活用のパターンは多様であり,背景因子によって承認への寄与度も異なっていた.医療情報データベースが活用されたのは5品目であり,承認への貢献が認められたのは1品目であった.結論:医療情報データベースの貢献度が他のRWDと比較して低かったのは,経験不足からの立案段階における不十分な事前検討が要因と考えられた.医療情報データベースからReal world evidenceを創出するためには,日常診療で発生し蓄積される情報を十分に理解し,目的に合った適切なデータベースを選択し,適切な設計と統計手法を適用することが不可欠である.