抄録
迷走神経刺激装置(Vagus Nerve Stimulation system)は完全植込み型の電気刺激装置で,左側の迷走神経を電気的に刺激することで薬剤抵抗性のてんかん発作を抑制したり軽減したりするものである.本邦では承認されてから3年が経過し,500例以上が植え込まれたものの直接医療費の変化については未だ報告が見られない.そこで本邦においてVNS植え込みの前後2年間の直接医療費を比較することでその変化が見られるかを検討した.聖隷浜松病院は2010年7月の承認以後2013年11月までに87例を植え込んだ.2年以上の迷走神経刺激治療を受けた患者の直接医療費を後方視的に調査するとともに,植込み前2年間と植込み後2年間の薬剤費も調査した.17症例(平均年齢28.6歳,16-56歳)がこの基準に達した.総直接医療費は薬剤費を除いて,植込み前2年間では¥21,519,870だったが,植込み後2年間では¥11,597,610だった.この医療費減少は,てんかん診療に係る診察費や脳波等の検査費および画像診断費の節減に負うところが大きい.4種類の新しい抗てんかん薬が2006年以降非常に高い薬価が付いて承認されたために迷走神経刺激による薬剤費の変化を論じることはできなかった.この調査により迷走神経刺激以降は薬剤費を除く直接医療費に変化が生じていることが明示された.しかしながら費用対効果を論じるまでには至っていない.加えて本調査は植え込み前2年間と植え込み後2年間の医療費の比較のために,調査期間が短く,そのために医療費が電池寿命による交換費用が含まれていない.今後は植え替えを含めた長期調査が必要と思われる.