2025 年 19 巻 1 号 p. 31-39
本研究の目的は,精神科病院に入院中の認知症高齢者における嗅覚機能と生活機能を比較し,重症度別の特徴を明らかにすることである.嗅覚機能(OE),握力,歩行スピード,認知症の重症度,認知機能,認知症の行動・心理症状(BPSD),日常生活活動(ADL)および手段的ADL(IADL)を調査した.認知症高齢者を軽度群(10名)と中・重度(14名)の2群に分類し,重症度別に各測定値を分析した.結果,中・重度群は軽度群に比してOEおよび下位項目(メントール・カレー)の正答率,認知機能,IADLが有意に低値であり,BPSDは有意に高値であった.次にOE下位項目における正答率と自覚率の乖離は,軽度群で2倍,中・重度群では3.6倍となり,重症度の進行に伴う違いが確認された.これらの結果から,認知症の重症化に伴う嗅覚機能の低下や正答率と自覚率の乖離が,認知機能および生活機能に悪影響を与える可能性が示唆された.