抄録
熱帯の泥炭低湿地に生育するサゴヤシの根についての2種類の実験をマレーシアのサラワク州において行った.実験の目的は,サゴヤシの成長が異なると見られる2種類の土壌,すなわち泥炭土と沖積鉱質土におけるサゴヤシ根量とその分布のちがいを明らかにすることである.実験1では,サゴヤシ植栽地で約8年生のサゴヤシの幹の根元付近,そこから約1mあるいは2m離れた地点で土壌プロックを深さ40cmまで掘り出し,根量を調べた.サゴヤシ根を直径と分岐により,分岐の密な直径2mm以下と,分岐の疎な5mm以上,中間的な2mmから5mm,の3種類に分けて定量した.直径5mm以下の細根現存量は泥炭層の厚い泥炭土壌,沖積鉱質土壌でそれぞれ,4.7,11.4 t/haと差がみられた.これらは森林における値の範囲の5~10 t/haとそれほど変わらなかった.成長のよい沖積鉱質土壌で細根量が多いという今回の結果はこれまでのサゴヤシや針葉樹の結果と異なっており,土壌サンプリングの深さや根の分岐特性のちがいが一因と考えられたが,今後さらに調査する必要がある.サゴヤシ根量の深さ40cmまでの土壌中の垂直分布は2種類の土壌で同様であり,直径2mm以下の根と直径2mmから5mmの根は表層の深さ0~20cmにそれぞれ 60%以上と55%以上が分布し,一方直径5mm以上の根は深さ10cmより深い土層,特に20~30cmに50%以上が存在した.サゴヤシの根の分布は他樹種の根や粗大木質有機物の存在により影響を受けていなかった.実験2では,約1年生の若いサゴヤシを,泥炭層の厚い泥炭土壌と泥炭層の薄い泥炭土壌で3本ずつ地上部・地下部ともに調査した.根の最大深さは両地点で少なくとも1mに達していると推察された.根株から分岐している1次根に関して,サゴヤシ1株あたりの全体の本数は泥炭層の薄い泥炭土壌の方が多かったが,上向きに伸長している根を除くと差は小さくなった.1次根の直径では土壌間の差はなかった.以上から深い泥炭土壌と沖積鉱質土壌では上述の3つの直径階の根の垂直分布パターンは同様であったものの,根の量全体で比べると成長が遅いとされる前者の方でより少ない傾向にあることが示唆された.